辞書を引くと「この」という指示詞だと出てきます。este libro(この本)のように使うアレですね。
ところが会話では、まったく別の顔を持っています。日本語の「えーと」「あのー」にあたるつなぎ言葉として、ものすごい頻度で登場するんですよ!
実は日本語にもまったく同じ現象があるんです!
「あのー…」の「あの」って、もともと「あの本」の「あの」ですよね。指示詞が、言葉を探す音に転用された——este と成り立ちが完全に同じなんですよ!
esteの意味と使い方 コアイメージは「指しながら詰まる」
”este(発音:エステ)”は、①指示詞として「この/これ」、②つなぎ言葉として「えーと」「あのー」という2つの顔を持つ言葉です。
語源はラテン語の iste(それ・その)。もともと何かを指し示す言葉でした。
イメージはこうです。
言いたい単語が出てこないとき、人は「あれ、あれだよ、ほら」とその場にない何かを指そうとするんですよね。その「指す動作」だけが音になって残ったのが este なんです!
”este”の2つの顔
●指示詞の este:「この/これ」
⇒ este(男性形)/esta(女性形)/estos・estas(複数形)と変化する
●つなぎ言葉の este:「えーと」「あのー」
⇒ este の形のまま固定。女性名詞の前でも esta にはならない
そこがポイントです!
つなぎ言葉になった時点で、もう「この」という意味は残っていないんですね。だから性・数の一致も起きません。文法的な役割を捨てた、ただの「考え中の音」になっているわけです。
”este”の基本例文
【指示詞:この/これ】
・Este libro es muy interesante.
(この本はとても面白い。)
・—¿Cuál quieres? —Este.
(—どれがほしい? —これ。)【つなぎ言葉:えーと/あのー】
・Ayer fui a… este… al mercado.
(昨日…えーと…市場に行ったんだ。)
・Se llama… este… no me acuerdo.
(名前は…あのー…思い出せないな。)
・Necesito el… este… el documento ese.
(必要なのは…えーと…あの書類。)
esteはどこで使われる?メキシコで圧倒的によく使われる
つなぎ言葉の este は、スペイン語圏のどこでも通じますが、使用頻度には地域差があります。とくに多いのがメキシコです。
メキシコシティの会話を長期的に分析した研究では、ためらいを示す言葉のうち este が7割以上を占めていたと報告されています。1970年代の資料でも2000年代の資料でも同じ傾向で、しかも若い世代のほうがよく使うという結果が出ています。
まさにそうなんです!
知らないと「este? この…何?」と身構えてしまって、そのあとの言葉を聞き逃すんですよ。「あ、今は考え中なんだな」と流せるようになるだけで、リスニングがぐっと楽になります!
聞き取りのコツ
este のあとに一瞬の間があったら、それはつなぎ言葉のほう。
este のあとにすぐ名詞が続いたら、それは指示詞のほう。
●este… el señor ese ⇒「えーと…あの人」(つなぎ言葉)
●este señor ⇒「この人」(指示詞)
esteの発音|伸ばし方がポイント
つなぎ言葉の este は、語尾を伸ばして使うのが自然です。表記でも esteee… のように e を重ねて書かれることがあります。
日本語の「あのー」も「あの」ではなく「あのー」と伸ばしますよね。あれと同じ感覚です!
「エステ」とはっきり切ってしまうと、指示詞の「この」に聞こえてしまうので注意してください。「エステェー…」と最後を溶かすのがコツですよ。
esteを使ってはいけない場面
este は完全に話し言葉専用です。次の場面では使いません。
esteを使わない場面
●書き言葉(メール、レポート、作文)
⇒ 文章では考える時間が要らないので、そもそも不要
●フォーマルなスピーチ・プレゼン
⇒ 準備不足の印象を与えてしまう
●短い返答
⇒ Sí / No で済むところに este を挟むと、かえって不自然
鋭いです!その通りなんですよ。
スペイン語ではこうした言葉をmuletilla(口癖)と呼ぶのですが、これは「松葉杖」という意味なんです。杖は必要なときに使うから助かるのであって、ずっと寄りかかっていたら歩けなくなってしまいますよね。
日本語話者へ|「えーと」をesteに差し替える練習
日本語を母語とする学習者にとって、este はとても相性がいい言葉です。理由は3つあります。
・成り立ちが同じ
「あのー」=指示詞「あの」の転用。este=指示詞「この」の転用。まったく同型です。
・伸ばし方が同じ
「あのー」も esteee も、語尾を伸ばして時間を稼ぎます。
・発音が簡単
エ・ス・テの3音だけ。スペイン語のつなぎ言葉の中で最も言いやすい部類です。
ただし、ひとつだけ大きな壁があります。それは「えーと」が無意識に口から出てしまうことです。
日本語話者がスペイン語を話すときに最も出やすい癖で、しかも本人はまず気づきません。そしてこの音はスペイン語話者には通じません。
コツは「やめる」のではなく「差し替える」ことです!
「えーと」を封じようとすると、その瞬間に頭が真っ白になります。そうではなく、「えーと」の出口に este を置いておくイメージで練習してみてください。
差し替え練習の手順
①スペイン語で1分間、自己紹介を話して録音する
②聞き返して、日本語の「えーと」「あのー」が出た箇所を数える
③同じ内容をもう一度話し、その位置で必ず este を出す
④3回目は、そのうち半分を無言の間(ま)に置き換える
※④まで行うのが大事です。este を増やすのが目的ではなく、日本語の音を追い出すのが目的だからです。
esteとeh、oyeとの違い
スペイン語には este 以外にも、詰まったときに出る音があります。混同しやすいものを整理しておきましょう。
este / eh / oye の違い
●este⇒「次に言う単語を探している」=えーと、あのー
●eh⇒「言葉になる前の、ただの声」=あー、うー(英語の “uh” に近い)
●oye⇒「相手の注意を引く呼びかけ」=ねえ、ちょっと(oír「聞く」の命令形)
日本語の「あのー」は実は呼びかけと言葉探しの両方に使えますよね。「あのー、すみません」と「昨日、あのー…」の2つです。
スペイン語では、この2つがoye(呼びかけ)と este(言葉探し)に分かれる——ここだけ気をつけてください!
esteの意味と使い方のまとめ
以下、este についてのまとめです。
⇒コアイメージは「指しながら詰まる」
⇒日本語の「あのー」と成り立ちが同じ(指示詞の転用)
●つなぎ言葉のときはeste の形のまま変化しない
●メキシコで圧倒的に多い。メキシコシティの研究ではためらい表現の7割以上を占める
●語尾を伸ばして esteee… と言うのが自然。切ると指示詞に聞こえる
●書き言葉やフォーマルな場では使わない。使いすぎると muletilla(口癖)になる
●日本語話者は「えーと」を este に差し替える練習から始めるのが近道
ほかにも pues / o sea / a ver があり、それぞれ役割が違います。全体像はこちらの記事でまとめていますよ!