辞書で「怒っている」を引くと enojado が出てきます。でも実際のスペイン語では、enfadado / molesto / harto / me da coraje と、まったく違う顔をした言い方が次々に出てきますよね。
実はこれ、単語の意味を覚えても選べないタイプの領域なんです。「強さ」「地域」「構文」「蓄積かどうか」という4本の軸で選ぶものなので、そこを先に押さえてしまいましょう!
大丈夫です、順番に見ていけば必ず整理できますよ!
しかも日本語話者には大きな武器があります。日本語の「腹が立つ」という言い方、あれが実はスペイン語の一番むずかしい構文とそっくりなんです。そこから入りましょう!
スペイン語の怒りは「1語」では選べない——選び分けの4本の軸
まず全体像です。スペイン語で怒りを表すときに、ネイティブが無意識に判断している軸は次の4つです。
怒りの表現を選ぶ4本の軸
軸1:強さ molesto(気に障る)< enojado / enfadado(怒っている)< furioso(激怒)
軸2:地域 enojado は中南米が主、enfadado はスペインが主。強さの差ではない
軸3:構文 「私が怒っている」型(estoy enojado)と「それが私を怒らせる」型(me da coraje)の2系統
軸4:蓄積 harto だけは瞬間の怒りではなく「積み重なって限界に来た」状態
まさにそこがポイントです!感情の言葉は辞書が一番役に立たない領域と言われていて、「angry = enojado」と1対1で覚えた人が必ず詰まるところなんですよ。
では軸を1本ずつ見ていきましょう!
軸1:強さのスケールを先に頭に入れる
まずは一番わかりやすい軸から。怒りの強さを、弱いほうから並べるとこうなります。
↓
irritado(イライラしている)
↓
enojado / enfadado(怒っている ※標準的な「怒り」)
↓
cabreado(かなり頭に来ている ※スペインの口語・やや荒い)
↓
強 furioso / rabioso(激怒している)
日本語に重ねると、molesto は「ちょっとムッとした」、enojado / enfadado は「怒ってる」、furioso は「ブチギレ」くらいの位置です。日常会話でいちばん出番が多いのは、真ん中の enojado / enfadado と、意外にも一番下の molesto です。
初学者の方に強くおすすめしたいのが molesto です!
いきなり「怒ってる(enojado)」と言うと相手が身構えてしまう場面でも、Estoy un poco molesto.(ちょっと気を悪くしてるんだ)と言えば、角を立てずに気持ちを伝えられますよ。
強さの軸から外れる2つ:frustrado と irritado
ここで1つ注意です。frustrado と irritado は、強さのスケールの上に置くと逆にわかりにくくなります。この2つは強さではなく「怒りの種類」が違うんです。
- frustrado:やりたいことを邪魔された怒り。うまくいかない、進まない、届かない、という方向のいら立ち
- irritado:同じことが繰り返されて削られた怒り。じわじわすり減っていく感じ
強さの軸の例文
・Estoy un poco molesto por lo que dijo.
(彼が言ったことで、ちょっと気を悪くしている。)
・Mi madre está enojada conmigo.
(母は私に怒っている。)
・El jefe estaba furioso cuando vio el informe.
(上司は報告書を見て激怒していた。)
・Estoy frustrado porque no avanzo nada.
(まったく進まなくて、もどかしくてイライラする。)
軸2:enojado と enfadado の差は「強さ」ではなく「地域」
ここがこのテーマ最大の誤解ポイントです!
多くの学習者が「enojado と enfadado はどっちが強いんだろう」と考えてしまうのですが、強さの差ではありません。どちらの国のスペイン語か、という差なんです。
enojado ⇒ メキシコをはじめとする中南米で主に使われる
enfadado ⇒ スペインで主に使われる
※意味の強さはほぼ同じ。どちらも通じるので、通じないという心配は不要
つまり、「どちらを使うか」は怒りの度合いではなく、話し相手がどこの国の人かで決めるということです。メキシコ人の友人には enojado、スペイン人の同僚には enfadado、と切り替えるイメージですね。
その勘違い、本当に多いんです!ここが分かるだけで一気に迷わなくなりますよ。
ちなみに、この2語にはもう1つ知っておくと得をする細かい違いもあります。詳しくは下の記事で、molesto も交えて徹底的に整理していますよ!
enojado と enfadado の違いとは?molesto も含めて使い分けを整理する
軸3:主語が2系統ある——「私が怒る」と「それが私を怒らせる」
ここが、日本語話者にとって一番の武器になるところです。
スペイン語で怒りを言うとき、文の形は大きく2系統に分かれます。
【A系統】「私が怒っている」型 = estar + 形容詞
Estoy enojado.(私は怒っている。)
Estoy molesta.(私は気を悪くしている。※話し手が女性)
【B系統】「それが私を怒らせる」型 = 間接目的語 + 動詞
Me enoja.(それが私を怒らせる = 腹が立つ。)
Me molesta.(それが私の気に障る = ムカつく。)
Me da coraje.(それが私に怒りをくれる = 腹が立つ。)
そうなんです!でもここで日本語を思い出してください。
「私は怒る」ではなく「腹が立つ」
これ、「腹」が勝手に立ってしまう言い方ですよね。自分が怒りを起こすのではなく、怒りが向こうから来るという感覚です。「むかつく」も同じで、こみ上げてくるほうですよね。
スペイン語のB系統は、まさにこの「腹が立つ」と同じ発想なんですよ!
この形は、実は初級で必ず習う gustar(好き)とまったく同じ仕組みです。Me gusta el café. が「コーヒーが私に気に入られる = コーヒーが好き」であるように、Me molesta el ruido. は「その音が私の気に障る」となります。
B系統(向こうから来る型)の例文
・Me molesta el ruido de la calle.
(通りの騒音が気に障る。)
・Me enoja que siempre llegue tarde.
(彼がいつも遅れて来るのが腹立たしい。)
・Me da coraje no poder hacer nada.
(何もできないことに腹が立つ。)
このB系統の代表選手が me da coraje です!
直訳すると「それが私に coraje をくれる」。怒りが向こうから来る感覚がいちばんはっきり出ている表現で、日本語の「腹が立つ」に一番近い言い方ですよ。
この表現にはおもしろい裏話もあるので、ぜひ下の記事で確認してみてください!
me da coraje の意味とは?「勇気」なのに「腹が立つ」になる理由
軸4:harto だけは種類が違う——「積み重なって限界」の怒り
4本目の軸は、harto です。これまでの言葉とはそもそもの種類が違うので、独立して覚えたほうが早いです。
harto ⇒ 積み重なった末に限界に達した状態。「もううんざり」「もう限界」
まさに「うんざり」です!そして harto には文の形にはっきりしたルールがあります。
「何にうんざりしているのか」を必ず de で示すんです。estar harto de 〜の形でセットで覚えてしまいましょう。
estar harto de 〜 の基本形
・Estoy harto de este trabajo.
(この仕事にはもううんざりだ。)
・Estoy harta de esperar.
(待つのはもううんざり。※話し手が女性)
・Estoy harto de que me mientan.
(嘘をつかれるのにはもううんざりだ。)
そして harto には、初学者がぜひ知っておくべき重さがあります。Estoy harto de ti.(君にはもううんざりだ)は、Estoy enojado contigo.(君に怒っている)よりもはるかに重い一言で、関係を切りにいく強さを持っています。
その感覚で正解です!
harto は語源まで辿るととても面白い単語で、そこを知ると「限界に達した」という意味が一発で腑に落ちますよ。下の記事でじっくり解説していますね。
estoy harto の意味とは?「もううんざり」を正しく使うための全知識
尋ねる側の表現:¿Qué te pasa? で相手の様子を訊く
ここまでは「自分の怒りを言う」側でした。会話で完結させるには、相手の様子を尋ねる側も必要ですよね。
その中心になるのが ¿Qué te pasa? です。
¿Qué te pasa? ⇒ 「(あなたに)何かあったの?」相手個人に焦点を当てる
そして ¿Qué te pasa? の面白いところは、口調ひとつで意味が真逆になるところです!
やさしく言えば「どうしたの?」という心配。強く言えば「なんなの?」というけんか腰。日本語とまったく同じ仕組みですよね。
心配していることをはっきり伝えたいなら、誤解の少ない ¿Estás bien?(大丈夫?)や ¿Ocurre algo?(何かあった?)を使うのが安全です。
¿Qué te pasa? の意味とは?心配にもけんか腰にもなる一言の使い分け
日本語話者が必ずつまずく2つの落とし穴
落とし穴1:形容詞の性数一致
日本語にはまったく無い仕組みなので、ここは意識的に練習が必要です。話し手が女性なら形が変わります。
怒りの形容詞は話し手の性別で形が変わる
男性が言う ⇒ Estoy enojado. / Estoy harto. / Estoy molesto.
女性が言う ⇒ Estoy enojada. / Estoy harta. / Estoy molesta.
複数(男性を含む) ⇒ Estamos enojados. / Estamos hartos.
複数(全員女性) ⇒ Estamos enojadas. / Estamos hartas.
そうなんです。だからこそ自分が使う形だけを先に固定してしまうのがおすすめですよ!
女性なら「私は enojada、harta、molesta」と、-a の形だけを口が覚えるまで繰り返す。これだけで実戦の事故がぐっと減ります。
落とし穴2:ser ではなく estar
怒りは一時的な状態なので、原則 estar を使います。ここで ser を使ってしまうと、意味がまるごと変わってしまいます。
【正しい】
・Estoy molesto.
(私は気を悪くしている。= 今の気分)【意味が変わってしまう】
・Soy molesto.
(私は迷惑な人間だ。= その人の性質)
もう1つの壁:そもそも「怒っている」と口に出すかどうか
文法とは別に、日本語話者にとって本当に大きな壁がもう1つあります。
日本語だと「怒ってる?」と訊かれても、「別に」と流すのが普通じゃないですか?怒っていることを面と向かって認めるのは、けっこう重いことですよね。
スペイン語圏では、Estoy enojado contigo.(君に怒っている)と相手に向かってはっきり言うことがあります。
これはけんかを売っているわけではなく、話し合いを始める合図なんです。黙って察してもらうのではなく、言葉にして机の上に出す。この発想の違いを知っておくと、言われたときに動揺しなくて済みますよ!
逆に言えば、自分が言う側になったときもやわらげ方を持っておくと安心です。Estoy un poco molesto.(ちょっと気を悪くしてる)や Me molestó un poco lo que dijiste.(さっき言われたこと、少し引っかかった)のように、un poco を挟むだけで一気に角が取れます。
スペイン語の怒りの表現まとめ
以下、今回のポイントのまとめです。
●強さ:molesto < enojado / enfadado < furioso。frustrado・irritado は別方向
●enojado(中南米)と enfadado(スペイン)は強さの差ではなく地域の差。どちらも通じる
●構文は2系統。「私が怒る型」estoy enojado と、「向こうから来る型」me da coraje(=日本語の「腹が立つ」)
●harto だけは種類が違い、「積み重なって限界」。必ず de で対象を取る
●尋ねる側は ¿Qué te pasa?。口調ひとつで心配にもけんか腰にもなる
●落とし穴は性数一致(enojada / harta)と、ser ではなく estar
4本の軸さえ頭に入っていれば、あとは場面ごとに選ぶだけです!
それぞれの表現をもっと深く知りたい方は、下の個別記事もぜひどうぞ。1つずつ潰していけば、怒りの表現はもう怖くありませんよ!
・enojado と enfadado の違い
(強さの差ではなく地域の差。ser molesto と estar molesto の罠まで)
・estoy harto の意味
(語源は「詰め込む」。de のあとに続く3つの形と、estoy harto de ti の重さ)
・me da coraje の意味
(日本語の「腹が立つ」とそっくりな構文。dar / tener / hacer の使い分けも)
・¿Qué te pasa? の意味
(¿Qué pasa? との違い、やわらかい言い換え、¿Qué te pasa, calabaza? まで)
それぞれの詳しい解説記事は、この記事の各セクションからリンクしています。気になったところから読んでみてくださいね。