スペイン語の食事の表現|「いただきます」が無い食卓で、言葉は相手に向けて言う

コダック
今日はスペイン語の食事の表現です!

最初に、ちょっとしたクイズから始めましょう。「いただきます」はスペイン語で何と言うでしょう?

答えは「ぴったり当たる言葉は無い」です。そのかわり、スペイン語には食べている人に向けて言う言葉がありますよ!

えっ、無いの? 「ブエン・プロベチョ」がいただきますだと思ってた。
コダック

そう覚えている人はとても多いんです!

でも、ここに日本語とスペイン語の食卓のいちばん大きな違いが隠れています。それは「言葉がどっちを向いているか」。この記事では、まずその「向き」を押さえてから、食事の流れに沿って表現を1つずつ見ていきますよ!

スペイン語の食事の表現は「相手に向けて言う」のが基本

日本語の「いただきます」「ごちそうさま」は、食べる本人が、自分の口で言う言葉です。ひとりで食べるときにも言えますし、誰に聞かせるわけでもなく、小さくつぶやく人もいますよね。

いっぽうスペイン語の”buen provecho(ブエン・プロベチョ)”は、食べている人に向かって、ほかの人がかける言葉です。

食事の言葉の「向き」の違い

日本語:いただきます/ごちそうさま
⇒ 言うのは食べる本人。言葉は自分(と食べ物・作ってくれた人)に向く
⇒ ひとりでも言える

スペイン語:buen provecho
⇒ 言うのは食べていない人でもいい。言葉は食べている相手に向く
⇒ ひとりでは言えない(相手がいないと成り立たない)

スペイン王立アカデミー(RAE)の辞書も、buen provecho を「何かがその人の健康や幸せに役立つように、という願いを表す」表現として載せています。つまり中身は「あなたの体の栄養になりますように」という願いで、感謝を口にする「いただきます」とは、そもそも役割が違うんです。

じゃあ、ひとりでご飯を食べるときは何も言わないってこと?
コダック

そのとおりです! スペイン語圏では、黙って食べ始めてまったく失礼になりません。

逆に、日本の感覚で「Buen provecho」と自分に言ってから食べ始めると、「誰に言ってるの?」という感じになってしまいます。日本語の「召し上がれ」を自分に言っているようなものなんですよ。

そっか、自分に「召し上がれ」は変だね。それならわかる!

食事の流れで覚える5つの場面とスペイン語の表現

ここからは、食事を「食べる前 → 食べ始め → 食べている間 → 食べ終わり → 食後」の5つの場面に分けて、それぞれで使う表現を見ていきます。

食事の流れとスペイン語

①食べる前:antojo(〜が食べたい、〜の口)
↓
②食べ始め:buen provecho(召し上がれ・どうぞごゆっくり)
↓
③食べている間:¡Qué rico!(おいしい!)
↓
④食べ終わり:¡Qué rico estuvo!(おいしかった!)※「ごちそうさま」の代わり
↓
⑤食後:sobremesa(食後の団らん)

①食べる前:antojo(アントホ)=「今日は〜の口」

ごはんの前、「今日はラーメンの口なんだよね」と言うことがありますよね。この「〜の口」にいちばん近いのが ”antojo(アントホ)” です。

ただの空腹(hambre)ではなく、特定の食べ物に気持ちが向いている状態を表します。語源はante(前)+ ojo(目)で、「目の前にちらつくもの」というイメージです。

【例文】
・Tengo antojo de tacos.
(タコスが食べたい気分なんだ。)
・Se me antojan unos tacos.
(なんだかタコスが食べたくなってきた。)

2つ目の antojan って、なんで最後に n がついてるの?
コダック

いいところに気づきましたね! se me antoja の形では、主語は「私」ではなく「タコス」なんです。

日本語でも「タコスが食べたくなる」と言いますよね。自分から欲しがるというより、向こうから気持ちが湧いてくる感覚です。だから主語の tacos(複数)に合わせて antojan になるんですよ。

メキシコで「antojitos(アントヒートス)」と書かれた看板を見たら、それは屋台系の軽食のこと。詳しくは個別の記事で解説していますよ!

antojo(アントホ)の意味とは? tener antojo de・se me antoja・antojitos の使い方

②食べ始め:buen provecho(ブエン・プロベチョ)=「召し上がれ」に近い

料理が運ばれてきたとき、同じテーブルの人や店員さんがかけてくれるのが ”¡Buen provecho!” です。provecho は「利益・ためになること」という意味の名詞で、直訳すると「よい栄養(になりますように)」。

日本語で近いのは「召し上がれ」「ごゆっくりどうぞ」ですが、召し上がれは基本的に作った人・出す人の言葉です。buen provecho はもっと範囲が広く、同じテーブルの仲間同士でも、地域によっては通りすがりの人にもかけられます。

【言い方のバリエーション】
・¡Buen provecho!(いちばん広く通じる形)
・¡Provecho!(短い形。メキシコなどでよく聞く)
・¡Que aproveche!(スペインでよく聞く形)

【言われたときの返し方】
・Gracias.(ありがとう)
・Gracias, igualmente.(ありがとう、あなたもね)※相手も食べているとき

お礼を言われたわけじゃないから、「De nada(どういたしまして)」じゃないんだね。
コダック

そうなんです! buen provecho は「願い」をもらった状態なので、返すのは「ありがとう」。De nada と返してしまうのは、初学者がいちばんやりがちなミスですよ。

なぜ bueno ではなく buen なのか、スペインの「que aproveche」はどういう文法なのかは、個別の記事でじっくり解説しています!

buen provecho(ブエン・プロベチョ)の意味とは? 「いただきます」ではない理由と返し方

③食べている間:¡Qué rico!(ケ・リコ)=「おいしい!」

ひと口食べて「おいしい!」と言いたいときの定番が ”¡Qué rico!” です。qué は「なんて」、rico は「おいしい」。「なんておいしいんだ!」という感嘆文ですね。

【例文】
・¡Qué rico!
(おいしい!)
・Está muy rico.
(すごくおいしいです。)
・¡Está riquísimo!
(めちゃくちゃおいしい!)
・¡Qué delicioso!
(なんておいしいんだろう!)※rico より少しあらたまった響き

rico って「お金持ち」じゃなかったっけ?
コダック

それも正解です! RAE の辞書でも rico の1番目の意味は「金持ち」で、「おいしい」は5番目なんです。

見分けるカギは動詞で、料理なら estar(está rico)、人の身分なら ser(es rico)。

それから、¡Qué rico! を人に向けて言うと、色っぽい意味に取られることがあるので要注意です。このあたりの落とし穴は個別の記事でまとめていますよ!

qué rico(ケ・リコ)の意味とは? 「リッチな味」ではない「おいしい」と使うときの注意点

④食べ終わり:「ごちそうさま」に当たる決まり文句は無い

「いただきます」と同じく、「ごちそうさま」にぴったり当たる決まり文句もスペイン語にはありません。そのかわりに、「おいしかった」という感想と「ありがとう」を、作ってくれた人・ごちそうしてくれた人に向けて言います。

「ごちそうさま」の代わりに言える表現

・¡Qué rico estuvo!
(おいしかった!)
・Gracias, estuvo delicioso.
(ありがとう、とてもおいしかったです。)
・Todo estuvo muy rico, gracias.
(全部すごくおいしかったです、ありがとう。)
・Gracias por la comida.
(ごはんをありがとう。)

あ、さっきの Qué rico がまた出てきた。でも está が estuvo になってるね。
コダック

そこがポイントです! está(今おいしい)が、食べ終わるとestuvo(おいしかった)に変わっています。

実はこれ、日本語でもまったく同じことをしていますよね。食べている間は「おいしい」、食べ終わったら「おいしかった」。日本人は無意識に、食事の前後で時制を切り替えているんです。

スペイン語でも同じ切り替えをするだけで、「ごちそうさま」の役目を果たせますよ!

そっか、「おいしかった」をそのまま言えばいいんだ。それなら覚えることが少なくて助かる!

⑤食後:sobremesa(ソブレメサ)=席を立たずに話し続ける時間

食べ終わったあと、コーヒーを飲みながら同じテーブルで話し続ける時間のことを ”sobremesa(ソブレメサ)” と言います。sobre(〜の上)+ mesa(テーブル)で、直訳すると「テーブルの上」。RAE の辞書では「食事のあと、食卓についている時間」と定義されています。

日本の外食は、食べ終わったら席を立つのが前提で、話し足りなければ二次会として場所を移すのがふつうですよね。スペイン語圏、とくにスペインでは、同じ席に残ったまま会話を続けるのが食事の一部と考えられています。

コダック

おもしろいのは、RAE の辞書が「昼食」を表す almuerzo の例文に

El almuerzo duró dos horas.(昼食は2時間続いた。)

という文を載せていることです。辞書の例文になるくらい「昼食が2時間」はふつうのことなんですね。その長さの大部分が sobremesa なんですよ!

ランチが2時間!? 日本の昼休みじゃ絶対ムリだね。

sobremesa は「デザート」と勘違いされやすい単語でもあります。デザートとの違いや、パソコン用語から意味を逆算するコツは、個別の記事で解説しています。

sobremesa(ソブレメサ)の意味とは? デザートではない「食後の団らん」

「comida」は食べ物?昼ごはん? 食事の名前のスペイン語

食事の表現を覚えるなら、食事そのものの名前もおさえておきましょう。ここに1つ、日本語話者がつまずきやすいポイントがあります。

1日の食事の名前

●desayuno(デサユノ)=朝ごはん
●comida(コミダ)/almuerzo(アルムエルソ)=昼ごはん(1日のメインの食事)
●cena(セナ)=夜ごはん

comida って「食べ物」って意味じゃないの? 昼ごはんにもなるの?
コダック

両方なんです! RAE の辞書でも、comida の1番目は「栄養をとるために食べたり飲んだりするもの」、2番目が「昼か午後の早い時間にとる食事」になっています。

これは日本語の「ごはん」と同じ構造ですね。「ごはん」も「お米」と「食事」の両方を指しますよね。

ただし、昼ごはんを comida と言うか almuerzo と言うかは国によって違います。almuerzo は地域によって「午前中の軽食」を指すこともあるので、現地で聞いた言い方に合わせるのがいちばんですよ。

スペインやメキシコでは、昼の食事が1日でいちばんしっかりした食事で、時間も日本より遅めです。「comida にしよう」と誘われたら、午後の早い時間にゆっくり食べる食事をイメージしておくと、話がかみ合いやすくなります。

スペイン語のレストランで使う基本フレーズ

次は、レストランでの流れに沿って、最低限おさえておきたいフレーズです。どれも「〜, por favor.」を付ければ丁寧になります。

レストランの基本フレーズ

【店員さんを呼ぶ】
・¡Disculpe!
(すみません!)

【メニューをもらう】
・¿Me trae la carta, por favor?
(メニューを持ってきてもらえますか?)

【おすすめを聞く】
・¿Qué me recomienda?
(何がおすすめですか?)

【注文する】
・Para mí, la sopa, por favor.
(私はスープをお願いします。)

【持ち帰りにする】
・Para llevar, por favor.
(持ち帰りでお願いします。)

【会計をお願いする】
・La cuenta, por favor.
(お会計をお願いします。)

コダック

ここで sobremesa の話がつながってきます!

食後に同じ席で話し続けるのがふつうの文化なので、多くの店では、こちらが頼むまでお会計を持ってきません。お皿が下げられたあと、いつまでも伝票が来なくても、それは放っておかれているのではなく「ごゆっくり」という気づかいなんです。

なるほど、だから La cuenta, por favor は自分から言わなきゃいけないフレーズなんだね。
コダック

そういうことです!

ちなみにメキシコのタコス屋台では、レストランよりもっと短いやり取りで注文が進みます。「数+de+具の名前」だけで通じる屋台の注文は、こちらの記事でまるごと紹介していますよ!

メキシコ料理・タコスの語彙とスペイン語での注文のしかた

食べ物をすすめられたときの「¿Gustas?」と断り方

メキシコで人と一緒にいるとき、相手が何かを食べ始める前に ”¿Gustas?”(グスタス) と聞いてくることがあります。これは「よかったら食べる?」という、食べ物を分けてあげるときのひとことです。

gustar は本来「〜が好きだ(〜が気に入る)」という動詞ですが、この ¿Gustas? は「¿Quieres?(欲しい?)」とほぼ同じ意味で使われます。

【すすめられたときの返し方】
・Sí, gracias.
(うん、ありがとう。)
・No, gracias. ¡Provecho!
(ううん、大丈夫。どうぞ召し上がれ!)

断るときに provecho を付けるのか。さっきの「相手に向ける言葉」がここでも出てくるんだね!
コダック

よく気づきましたね!

断るだけだと少しそっけないですが、最後に ¡Provecho! を添えると、「気にせず食べてね」という気持ちまで伝わります。すすめる側も、断る側も、言葉はいつも相手の食事に向いているんです。

これがスペイン語の食卓の言葉のいちばんの特徴ですよ!

スペイン語の食事の表現のまとめ

以下、スペイン語の食事の表現のまとめです。

●日本語の食事の言葉は自分が言う(いただきます・ごちそうさま)。スペイン語の食事の言葉は相手に向けて言う(buen provecho)
⇒「いただきます」「ごちそうさま」にぴったり当たる決まり文句は無い。ひとりなら黙って食べ始めてOK
●食べる前:antojo=「〜の口」。Se me antojan unos tacos. は tacos が主語
●食べ始め:¡Buen provecho!/¡Provecho!/¡Que aproveche! ⇒ 返しは Gracias (, igualmente)。De nada ではない
●食べている間:¡Qué rico!/Está muy rico.(料理は estar)
●食べ終わり:¡Qué rico estuvo!/Gracias, estuvo delicioso. ⇒ 日本語の「おいしい→おいしかった」と同じ時制の切り替えで「ごちそうさま」の代わりになる
●食後:sobremesa=同じ席に残って話し続ける時間。だからお会計は La cuenta, por favor. と自分から頼む
●comida は「食べ物」と「昼ごはん」の両方。日本語の「ごはん」と同じ構造

この記事から続けて読みたい4本

  • antojo の意味:空腹ではない「〜の口」。se me antoja の主語と、メキシコの antojitos の正体
  • buen provecho の意味:「いただきます」ではなく、誰が誰に言うのか。返し方と地域差
  • qué rico の意味:「リッチな味」ではない「おいしい」。人に向けるときの注意点
  • sobremesa の意味:デザートではない「食後の団らん」。パソコン用語から意味を逆算するコツ