「buen(よい)」+「provecho(ためになること・利益)」の2語でできた表現です。
「あなたの体のためになりますように」がコアイメージで、日本語で言えば「召し上がれ」「ごゆっくりどうぞ」に近い言葉ですよ!
そう書いてある教材もありますが、使い方を考えると「いただきます」とはほぼ逆なんです。
「いただきます」は食べる自分が言う言葉。buen provecho は食べている相手に向かって言う言葉です。今日はこの「向き」をしっかり押さえましょう!
buen provecho の意味と使い方 コアイメージは「あなたのためになりますように」
”buen provecho(発音:ブエン・プロベチョ)”は、食事をしている人、これから食べる人に向かって「どうぞ召し上がれ」「ごゆっくり」と声をかける表現です。
スペイン王立アカデミー(RAE)の辞書では、buen provecho を「何かがその人の健康や幸せに役立ち、ふさわしいものであるように、という願いを表すのに使う」と説明しています。ポイントは「願い」だということです。
provecho は「利益・ためになること」という意味の名詞です。de provecho で「役に立つ」という言い方もあるんですよ。
つまり buen provecho は、「その食事が、あなたにとってよい栄養になりますように」という、相手の体への願いなんです。
「意味と使い方」の基本例文
【料理が運ばれてきたとき(店員さん→客)】
・Aquí tienen. ¡Buen provecho!
(お待たせしました。どうぞ召し上がれ!)【同じテーブルで食べ始めるとき(仲間同士)】
・¡Buen provecho a todos!
(みんな、召し上がれ!)【食事中の人がいる部屋に入ったとき】
・¡Buen provecho!
(あ、お食事中にどうも。ごゆっくり!)
「召し上がれ」とも違う? buen provecho を言うのは誰か
「いただきます」ではない、ということはわかりました。では「召し上がれ」と完全に同じかというと、そうでもありません。
日本語の「召し上がれ」は、作った人や料理を出す人の言葉ですよね。友だちが食べているところに、関係のない人が「召し上がれ」と言うことはまずありません。
ところが buen provecho は、料理に関係のない人もふつうに言います。
buen provecho を言う人・言わない人
●料理を出す人(店員さん・作った人)
⇒ 日本語の「召し上がれ」と同じ
●同じテーブルの仲間
⇒ 食べ始めにお互いに言い合う
●先に食べ終わって席を立つ人
⇒ まだ食べている人に「ごゆっくり」の気持ちで言う
●通りすがりの人・食事中の部屋に入ってきた人
⇒ 地域によっては、知らない人にも言う
●ひとりで食べる自分
⇒ 言わない(向ける相手がいない)
とくにメキシコでは、食堂で隣のテーブルの人や、店を出るときに近くで食べている人に、軽く「Provecho」と声をかける光景がよく見られますよ。
日本語でいうと、職場で先に帰る人が言う「お先に失礼します」に近い感覚です。あれも仕事の中身とは関係なく、その場にいる人への気づかいとして言いますよね。
ただし、どこまで言うかは国や地域、人によって差があります。スペインでは、buen provecho はレストランの店員さんが客に言うことが多く、友だち同士では次に紹介する ¡Que aproveche! のほうがよく使われる、という説明もあります。
buen provecho の返し方 「De nada」は間違い
「Buen provecho」と言われたら、何と返せばいいのでしょうか。答えはシンプルです。
【返し方】
・Gracias.
(ありがとう。)
・Gracias, igualmente.
(ありがとう、あなたもね。)※相手も食べているとき
・Gracias, muy amable.
(ありがとう、ご親切に。)※通りすがりの人や店員さんに
そこが初学者のいちばんのつまずきポイントなんです!
De nada は「どういたしまして」。つまりお礼を言われたときの返しです。でも buen provecho は、お礼ではなく「あなたにいいことがありますように」という願いをもらった状態。
日本語でも、「お大事に」と言われて「どういたしまして」とは返しませんよね。「ありがとう」と返すはずです。buen provecho もそれと同じですよ!
実際、RAE の文法書『新スペイン語文法(Nueva gramática de la lengua española)』でも、buen provecho と que aproveche は「食べたり飲んだりしている人に向ける礼儀の表現」として、gracias などと同じ「あいさつ・礼儀の間投詞」のグループで扱われています。
なぜ bueno ではなく buen? 語尾が落ちるルール
「よい」は bueno なのに、なぜ buen provecho なのでしょうか。これは語尾の脱落(apócope)というルールによるものです。
RAE の『汎スペイン語圏疑問辞典(Diccionario panhispánico de dudas)』には、
bueno は、男性単数名詞の前では、あいだに別の語がはさまっていても必ず buen になる
と書かれています。provecho は男性名詞で単数なので、bueno provecho ではなく buen provechoになるんです。
【同じルールで buen になる例】
・buen día(よい1日を)※bueno día とは言わない
・buen viaje(よい旅を)
・un buen amigo(いい友だち)【buen にならない例】
・buena suerte(幸運を)※suerte は女性名詞
・buenos días(おはよう)※複数形
・El café es bueno.(そのコーヒーはおいしい)※名詞の後ろ
地域で変わる言い方 メキシコの ¡Provecho! とスペインの ¡Que aproveche!
1. メキシコなどで聞く短い形 ”¡Provecho!”
buen を省いて ¡Provecho! とだけ言う短い形は、メキシコをはじめ中南米でよく聞かれます。通りすがりにさっと言うときは、この短い形がぴったりです。
【例文】
・(店を出るとき、近くのテーブルに)¡Provecho!
(ごゆっくり!)
・No, gracias. ¡Provecho!
(ううん、大丈夫。召し上がれ!)※食べ物をすすめられて断るとき
2. スペインでよく聞く ”¡Que aproveche!”
スペインでよく使われるのが ¡Que aproveche!(ケ・アプロベチェ) です。aprovechar は「役に立つ・ためになる」という動詞で、provecho の仲間です。
鋭いですね! これは接続法(subjuntivo)という形です。
スペイン語では「Que + 接続法」で「〜しますように」という願いを表します。¡Que te vaya bien!(うまくいきますように)と同じ形ですね。
つまり ¡Que aproveche! は「(その食事が)ためになりますように」。buen provecho とまったく同じ「願い」の言葉なんですよ。
RAE の文法書では、que te aproveche/que le aproveche/que les aproveche/que os aproveche のように、相手を表す代名詞を入れた形も挙げられています。相手が1人の友だちなら ¡Que te aproveche!、スペインで友だちのグループに言うなら ¡Que os aproveche! です。
buen provecho は失礼? マナーをめぐる意外な議論
ここまで「相手への気づかいの言葉」として紹介してきましたが、実は「buen provecho はマナー違反だ」という意見もあります。
理由は、食べている最中に声をかけると、相手は口に食べ物が入ったまま返事をしなければならなくなるから。19世紀に書かれ、中南米で広く読まれたマナー本『カレーニョのマナー教本(Manual de Carreño)』の考え方として紹介されることが多い意見です。
いいえ、日常ではふつうに使われている言葉なので、心配しすぎなくて大丈夫です!
ただ、このマナー論から学べるコツがあります。言うなら「食べ始める前」か「自分が席を立つとき」。相手がもぐもぐしている最中は避ける。これだけで、どちらの考え方の人にも気持ちよく伝わりますよ。
言われた側も、口に食べ物があるときは笑顔でうなずくだけで十分です。
おまけ:アルゼンチンの provecho は「げっぷ」?
RAE の辞書で provecho を引くと、アルゼンチンとウルグアイの口語で「赤ちゃんのげっぷ」という意味も載っています。
授乳のあとに出る赤ちゃんのげっぷは、「ちゃんと飲めた・体のためになった」というしるしですよね。「食べたものがためになる」という provecho のコアイメージが、こんなところにも顔を出しているんです。
buen provecho の意味と使い方のまとめ
以下、buen provecho の意味と使い方についてのまとめです。
⇒コアイメージは「あなたの体のためになりますように」という願い
⇒「いただきます」ではない。食べる自分ではなく、食べている相手に向けて言う
●日本語の「召し上がれ」に近いが、作った人以外も言う(仲間同士・先に席を立つ人・通りすがりの人)
●返し方は Gracias/Gracias, igualmente。「お大事に」と同じく願いへの返事なので De nada は誤り
●bueno は男性単数名詞の前で buen になる(buen viaje, buen día と同じ)
●メキシコなどでは短く ¡Provecho!、スペインでは ¡Que aproveche!(Que+接続法の願い)もよく使う
●言うなら食べ始める前か、自分が席を立つときがスマート
食べる前の antojo、食べている間の ¡Qué rico!、食後の sobremesa まで、食事の流れに沿った表現はこちらの記事でまとめていますよ!
「Real Academia Española, Diccionario de la lengua española(provecho/aprovechar)」
「Interjecciones apelativas – Nueva gramática de la lengua española(RAE・ASALE)」
「bueno, buena – Diccionario panhispánico de dudas(RAE・ASALE)」
「buen provecho – Wiktionary」
「¡Buen provecho! – Lawless Spanish」
「Decir provecho ¿Por qué es mal visto decirlo? – Zancada」