mami・papi(マミ・パピ)の意味とは?スペイン語で恋人を「ママ」「パパ」と呼ぶ理由とpapi chulo・注意点を初心者向けに解説

コダック
今日のスペイン語は”mami””papi”

読み方は「マミ」「パピ」。意味はとてもシンプルで、「ママ」「パパ」です。

……と、ここで終わればラクなのですが。実はこの2語、スペイン語圏では恋人や配偶者への呼びかけとしても使われるんですよ!

えっ、待って。恋人を「ママ」「パパ」って呼ぶの?それはさすがに変じゃない…?
コダック

その反応、大正解です!日本語の感覚だとギョッとしますよね。

でも実を言うと——日本語にも、これとそっくりな現象があります。しかもあなたは絶対に見たことがあるはずですよ。

その話は記事の途中でたっぷりやりますので、まずは辞書を開くところから始めましょう!

目次

”mami”と”papi”の意味 まずは「ママ」「パパ」から

”mami(発音:マミ/MA-mi【女性名詞】)”は「ママ」、”papi(発音:パピ/PA-pi【男性名詞】)”は「パパ」を意味する、子どもっぽく親しみのこもった言い方です。

もとになっているのは、もちろん mamá(ママ・お母さん)papá(パパ・お父さん) ですね。

ここで初心者の方がまず引っかかるのが、アクセントの位置です。

アクセントの位置に注意!

mamá(ママ)/papá(パパ
後ろを強く読みます。アクセント記号(á)が付いているのがその目印。

mamiミ)/papiピ)
を強く読みます。記号は付きません。

⇒ もとの語と強く読む場所が逆になるので、ここだけは最初に押さえておきましょう。

では、スペイン王立アカデミー(RAE)の看板辞書『Diccionario de la lengua española(通称DLE)』を引いてみましょう。

mami
1. f. afect. coloq. mamá.
(女性名詞。愛情表現・口語。mamá=ママ)

papi
1. m. afect. coloq. papá.
(男性名詞。愛情表現・口語。papá=パパ)

2. m. coloq. Bol., Méx., Pan. y P. Rico. Hombre físicamente atractivo.
(男性名詞。口語。ボリビア、メキシコ、パナマ、プエルトリコ。肉体的に魅力のある男性)

3. m. pl. afect. coloq. papás.
(男性名詞・複数形。愛情表現・口語。papás=両親)

※参考・引用「Real Academia Española, Diccionario de la lengua española

あれ、papi は3つも意味があるのに、mami は1個しかないんだ。なんか不公平じゃない?
コダック

おっと、いきなり核心を突いてきましたね……!

実はその「数の差」こそが、この記事でいちばんお伝えしたいことにつながっています。

mami と papi は、見た目こそ男女ペアのきれいな鏡写しに見えますが、辞書の書きぶりは全然そろっていないんです。この話は記事の後半で、証拠を3つ並べてじっくりやりましょう!

DLEの”afect.”ラベル ── 実は cariño より手厚い扱い

ここで、辞書のラベルにひとつ注目してください。DLEは mami にも papi にも 「afect.」 という記号を付けています。

これは afectivo(愛情のこもった語) の略で、「この語には話し手の愛情がこもっていますよ」という辞書からの合図です。

コダック

実はこれ、地味にすごいことなんですよ。

スペイン語の代表的な愛称である cariñocorazón には、DLEはこういうラベルを一切付けていません

ところが mami・papi にはちゃんと付いている。辞書は、この2語を「愛情語」としてきちんと認識しているということですね!

へえ、有名な cariño のほうが辞書では冷たく扱われてるんだ。ちょっと意外だな。

ただし——ここが大事なところです。

DLEが書いているのは、あくまで「mami=mamá」「papi=papá」というところまで(papi の「魅力的な男性」を除く)。

「恋人や配偶者に呼びかけるのに使う」という説明は、DLEには書かれていません。

じゃあ「恋人をパパって呼ぶ」って話は、結局どこに載ってるの?先生の作り話じゃないよね…?
コダック

疑ってくれてありがとうございます、その姿勢が語学では最強です!

ご安心ください。ちゃんと辞書に載っています。ただしDLEではなく、もう一冊の辞書のほうに。

そのもう一冊を、次の章でご紹介しますね!

【核心】恋人への”mami / papi”は、アメリカ大陸の辞書がはっきり記録している

ここで登場するのが、『Diccionario de americanismos(アメリカ語法辞典。以下DAmer)』です。

これはスペイン語アカデミー協会(ASALE)——スペインと中南米など各国のアカデミーが集まった組織——が2010年に刊行した、アメリカ大陸のスペイン語に特化した辞書です。

このDAmerで papi を引くと、こう書かれています。

papi
fórm. EU, CR, Pa, Cu, RD, Co, Ve, Ec, Bo, Ar, Ur. Se usa para dirigirse al novio o al esposo, o a un niño pequeño si el que habla es una persona mayor. pop. ^ afec.

定型表現。アメリカ合衆国、コスタリカ、パナマ、キューバ、ドミニカ共和国、コロンビア、ベネズエラ、エクアドル、ボリビア、アルゼンチン、ウルグアイ。恋人あるいは夫に呼びかけるために用いる。また、話し手が年長者である場合には小さな男の子に対しても用いる。民衆語・愛情表現)

※参考・引用「Asociación de Academias de la Lengua Española, Diccionario de americanismos

そして mami のほうは、こうです。

mami
fórm. Mx, Pa, Cu, RD, PR, Co, Ve, Bo; Ec, p.u. Se usa para dirigirse a la novia o a la esposa, o a una niña pequeña si el que habla es un adulto. pop. ^ afec.

定型表現。メキシコ、パナマ、キューバ、ドミニカ共和国、プエルトリコ、コロンビア、ベネズエラ、ボリビア。エクアドルでは使用頻度は低い。恋人あるいは妻に呼びかけるために用いる。また、話し手が大人である場合には小さな女の子に対しても用いる。民衆語・愛情表現)

※参考・引用「Asociación de Academias de la Lengua Española, Diccionario de americanismos

ほんとだ、「novio(恋人)」「esposo(夫)」ってそのまま書いてある。しかも国の名前がずらっと並んでるんだね。
コダック

そこに気づけたのが素晴らしいです!

辞書が国名を1つずつ挙げているということは、「どこでも通じる言い方ではない」と辞書自身が言っているのと同じことなんですよ。

ちなみに、この長いリストのなかにスペインは入っていません。ここ、地味ですがとても重要なポイントです!

辞書のラベルを読めるようになろう

DAmerの記述には見慣れない略語が並んでいますが、意味が分かると一気に読めるようになります。

fórm.=fórmula(定型表現)
「呼びかけなどで決まった形で使われる言い回し」のこと。これが付いていること自体が「呼びかけ語ですよ」という表示になります。

pop.=popular(民衆語)
くだけた日常の話し言葉の層。フォーマルな場や書き言葉には向きません。

afec.=afectivo(愛情表現)
話し手の愛情・親しみがこもっている、という表示。

coloq.=coloquial(口語)/p. u.=poco usado(あまり使われない)

vulg.=vulgar(下品)/desp.=despectivo(侮蔑的)
※この2つは後半の「注意」の章で登場します。見かけたら要警戒のラベルです。

国名リストを見比べると、papi と mami は「同じ地図」ではない

せっかく国名が並んでいるので、2つのリストを重ねてみましょう。ここにも小さな発見があります。

”papi”と”mami”の国名リストを重ねてみる

両方に載っている国
パナマ/キューバ/ドミニカ共和国/コロンビア/ベネズエラ/ボリビア/エクアドル
カリブ海周辺とアンデス北部が中心であることが見えてきます。

papi にだけ載っている国
アメリカ合衆国(=スペイン語話者コミュニティ)/コスタリカ/アルゼンチン/ウルグアイ

mami にだけ載っている国
メキシコ/プエルトリコ

⇒ つまり「中南米ぜんぶで同じように使う」わけではありません。そしてスペインはどちらのリストにも入っていない——これがいちばん大事な一点です。

スペインで恋人に papi って言っても通じないってこと?
コダック

「通じない」というより、「その土地の習慣ではない」と考えてください。

辞書のリストに無いということは、そこでは普通の言い方として定着していないということ。スペインの人に向かって使うと、単に不思議な顔をされる可能性が高いですね。

スペインで愛称を使いたいなら、cariño のほうが断然おすすめですよ!

日本語にも同じ現象があります ── 夫婦が「パパ」「ママ」と呼び合うあれ

さて、お待たせしました。冒頭で予告した「日本語にもそっくりな現象がある」という話です。

次のような場面を、思い浮かべてみてください。

日本語の家庭でよくある会話

●妻が夫に向かって
お父さん、ごはんできたよ」

●夫が妻に向かって
ママ、はんこどこにしまったっけ?」

⇒ どちらも自分の親に話しかけているわけではありません。配偶者への呼びかけです。

あー!これは確かに聞いたことある。うちもそうだったかも。……これ、スペイン語と同じことしてるってこと?
コダック

まさにそうなんです!しかもこれ、日本語学でずっと前から研究されているテーマなんですよ。

種明かしをすると、この夫婦は「子どもの目線を借りて」相手を呼んでいるんです。

子どもから見れば、夫は「お父さん」、妻は「ママ」。その子ども用の呼び名を、夫婦のあいだで使い回しているわけですね。

この現象は、言語学者の鈴木孝夫が『ことばと文化』(岩波新書、1973年)で詳しく論じたことで広く知られるようになりました。

鈴木は、日本語の家庭内の呼び名には「家族のいちばん年下の人を基準点にする」という原則が働いていると指摘しました。

そして、名前で呼び合っていた夫婦が、子どもが生まれたとたんに「パパ」「ママ」へ切り替わるという観察も記しています。

ちなみに、こうした「子どもを経由して大人を呼ぶ」現象には、言語学の用語もあります。テクノニミー(teknonymy)——人類学者E・B・タイラーが1889年に名づけた用語で、「シーラの父」のように子どもの名を借りて大人を指す呼び方のことです。日本語だけの特殊事情ではなく、世界のさまざまな言語で観察されます。

ここで矢印の向きだけ、しっかり意識しておいてください。テクノニミーは「子ども → 大人」子どもを出発点にして、大人の呼び名が決まる——これがこの用語の中身です。

(この「向き」は、次の章でひっくり返ります。覚えておいてくださいね。)

じゃあ日本語もスペイン語も、やってることは一緒なんだ。なんだ、全然変じゃなかったんだね。
コダック

……と、ここで終わらせないのがこの記事です!

たしかに構造はよく似ています。でも、両者には決定的な違いが1つあるんですよ。

もう一度、さっきのDAmerの定義文を思い出してみてください。ある条件が、どこにも書かれていなかったはずです。

決定的な違いは「子どもがいるかどうか」

DAmerの定義文をもう一度見てみましょう。

「Se usa para dirigirse al novio o al esposo(恋人あるいは夫に呼びかけるために用いる)」

お気づきでしょうか。ここには「子どもがいる場合に」という条件がまったく書かれていません。しかも novio(恋人) が、esposo(夫) より先に置かれています。

日本語「お父さん・ママ」=子どもが前提
子どもが生まれてはじめて、夫婦は互いを「パパ」「ママ」と呼べるようになります。子どものいない夫婦がこう呼び合うことは、まずありません。あくまで「子どもから見た呼び名」を借りているからです。

スペイン語 mami・papi=子どもは要らない
辞書はnovio / novia(恋人)を筆頭に挙げています。つまり結婚もしていない、子どももいない10代・20代のカップルが、普通に呼び合うということ。ここが日本語話者にとって最大の驚きです。

つまり
日本語は「親としての役割」を呼び名にしているのに対し、スペイン語の mami・papi は親であることとは無関係に、そのまま愛情語になっているのです。

そっか、日本語のは「役割の呼び名」だけど、スペイン語のはもう完全に「甘い言葉」になっちゃってるんだ。同じ入り口から入って、着いた場所が違うんだね。
コダック

見事なまとめです、そのとおり!

どちらも「親を表す言葉を、親以外に向ける」という同じ入り口から出発しています。ところが日本語は「家庭内の役割」の方向へ、スペイン語は「恋愛の甘さ」の方向へ進んだ。

同じ材料から、違う料理ができあがった——そう考えると分かりやすいですね!

なお、日本語でも親族名詞に恋愛的・性的な含みが乗ることがない、というわけではありません。

近年よく耳にする「パパ活」のような語を思い浮かべれば、「パパ」という語が親子関係から離れた文脈にも流れ込むことは、日本語話者にも実感しやすいはずです。

コダック

ただし念のため、これは「同じもの」ではありませんので注意してくださいね。

日本語の「パパ活」はお金のやりとりを含む特定の関係を指す新しい俗語です。一方スペイン語の papi は、普通のカップルが普通に使う愛情語

ここで見てほしいのは中身ではなく、「親を表す語が、親以外の関係に流用される」という仕組みそのもののほうですよ!

逆方向もある ── 大人が小さな子に”mami / papi”と呼びかける

ここまでで「子ども→親」の呼び名が「恋人どうし」に流用される話を見てきました。

ところがDAmerの定義文には、実はもう一つ別の用法が書き込まれていました。もう一度、後半部分に注目してください。

papi:… o a un niño pequeño si el que habla es una persona mayor.
(…また、話し手が年長者である場合には小さな男の子に対しても用いる)

mami:… o a una niña pequeña si el que habla es un adulto.
(…また、話し手が大人である場合には小さな女の子に対しても用いる)

※参考・引用「Asociación de Academias de la Lengua Española, Diccionario de americanismos

ん?ちょっと待って。お母さんが娘のほうに「ママ」って呼びかけるの?逆じゃない?頭がこんがらがってきた…。
コダック

その混乱、まったく正常です!ここは日本語の感覚からいちばん遠いところですからね。

起きているのはこういうことです。「自分が呼ばれている名前を、そのまま相手に返している」

母が娘に mami と呼びかけ、父が息子に papi と呼びかける。呼び名が鏡のように跳ね返るわけです。

なるほど、「あなたと私は同じチームだよ」って言ってるみたいな感じか。それはちょっとかわいいかも。
コダック

すごくいい捉え方ですね!

辞書の書き方をよく見ると、年長者から年少者へという向きがはっきり指定されています(si el que habla es una persona mayor / un adulto)。

つまりこれは子どもが大人を呼ぶ言葉ではなく、大人が子どもをかわいがるときの言葉。同じ mami という形なのに、向きが正反対なんですよ。

これは「テクノニミー」ではありません ── もう一つの現象「呼称の逆転」

ここで、ひとつ大事な整理をしておきましょう。

前の章で、夫婦が互いを「パパ」「ママ」と呼び合うのはテクノニミーだとお話ししました。では、この「大人が小さな子を papi と呼ぶ」用法も同じテクノニミーなのかというと——

これは、まったく別の現象です。

こちらには 「呼称の逆転」(address inversion/inverse vocative) という別の名前が付いています。中身はこうです。

話し手が、「聞き手から見た自分の呼び名」で、聞き手を呼ぶ。

父から見れば、息子は自分を「パパ」と呼びます。その「パパ」を、父のほうが息子に向かって投げ返す——これが呼称の逆転です。

テクノニミー(teknonymy) = 矢印は 子ども → 大人
子どもを経由して大人を呼ぶ。「シーラの父」。
⇒ 日本語の例:妻が夫を「お父さん」と呼ぶ(子どもから見た呼び名を借りている)。
子どもがいてはじめて成立します。

呼称の逆転(address inversion) = 矢印は 大人 → 子ども
相手が自分を呼ぶときの語で、相手を呼び返す。
⇒ スペイン語の例:父が息子に「papi!」、母が娘に「mami!」と呼びかける。
呼び名がそのまま跳ね返ります。

⇒ 混同しやすいのですが、出発点も到着点も逆です。DAmerが記録している「大人→小さな子」の用法は、後者(呼称の逆転)のほうですよ。

あ、さっき先生が「向きがひっくり返る」って言ってたのはこれか。名前まで別々についてるんだね。
コダック

そういうことです、よく回収してくれました!

そしてこの「呼称の逆転」はスペイン語だけのものではありません。南イタリアの方言では古くから知られていて、父親が子どもに ”Mangia, papà!”(お食べ、パパ) と言う例が言語学の論文でも扱われています。

ルーマニア語やハンガリー語、マルタ語などにも同じ型があると報告されていますよ。

そして、ここが日本語話者にとっていちばん大事なところです。

日本語は、テクノニミーのほうは得意でした。妻が夫を「お父さん」と呼ぶ——これは前の章で見たとおり、ごくありふれた光景です。

ところが「呼称の逆転」のほうは、日本語にはほとんど見られません

お父さんが息子に向かって「パパ!」と呼びかける習慣は、日本語にはありませんよね。

たしかに、お父さんに「パパ」って呼ばれたらびっくりするな。日本語は片方だけ持ってるんだ。
コダック

まさにそこが両言語の分かれ目ですね!

日本語=テクノニミーだけ。スペイン語圏=両方あり。

だから日本語話者は、②の「恋人どうしの mami / papi」より、むしろ③の「大人が子どもに mami / papi」のほうに強い違和感をおぼえるんです。日本語に対応する型が無いからなんですよ。

整理すると、mami / papi には3つの向きがあることになります。

”mami / papi”の3つの向き

① 子ども → 親(本来の意味)
「ママ」「パパ」。これは日本語とまったく同じです。

② 恋人 → 恋人/配偶者 → 配偶者(DAmerが記録)
子どもがいなくても使えます。日本語の感覚から最も遠いのがここ。

③ 大人 → 小さな子ども(DAmerが記録)
①の逆流。呼び名がそのまま跳ね返ります=「呼称の逆転」

⇒ 同じ形で3方向に飛ぶので、実際の会話では「誰が誰に言っているか」で判断するのがコツです。

【要注意】”mami”には、下品・侮蔑のラベルがついた用法もあります

ここまで、mami / papi の愛らしい側面を見てきました。

しかし——学習者として、必ず知っておかなければならない注意点があります。これを知らずに使うと、大きな失敗につながりかねません。

DAmerの mami の項には、愛情表現の語義とは別に、次の記述が並んでいます。

mami
Pa. Se usa para llamar la atención de una mujer al piropearla.
パナマ女性を「ピロポ(street でのほめ言葉・声かけ)」で口説く際に、その女性の注意を引くために用いる

※この語義には vulg.(下品)desp.(侮蔑的) のラベルが付けられています。

※参考・引用「Asociación de Academias de la Lengua Española, Diccionario de americanismos

えっ、さっきまで「愛情表現」だったのに、急に「下品」「侮蔑的」って…。同じ単語だよね?
コダック

同じ単語です。だからこそ危ないんです

分かれ目は語そのものではなく、「あなたと相手がどういう関係か」

恋人に言えば愛情表現。見ず知らずの女性に道端で言えば、辞書が下品・侮蔑と呼ぶふるまいになります。同じ音なのに、着地点がまるで違うんですよ。

ここで出てくる piropear(ピロポを言う) という動詞は、路上などで見知らぬ女性に容姿をほめる言葉をかけるという、スペイン語圏の古い習慣を指します。

かつては「文化」として語られることもありましたが、現在では受け手にとって不快な行為として問題視される場面が増えています。DAmerが vulg.desp. の2つのラベルを重ねて付けているのは、まさにその評価を反映したものと言えるでしょう。

① 知らない人に mami / papi と呼びかけない
とくに見知らぬ女性に mami と声をかけるのは絶対に避けてください。辞書が vulg.(下品)+ desp.(侮蔑的) と明記している行為です。親しくない相手には、名前か señora / señorita / disculpe などを使いましょう。

② 目上の人・仕事の相手には使わない
DAmerは pop.(民衆語) のラベルを付けています。これはくだけた話し言葉の層だという表示。上司・取引先・初対面の相手に使う語ではありません。

⇒ 安全に使えるのは相手がすでにあなたをそう呼んでいる場合か、親しい恋人・家族どうしのときだけ、と考えておけば間違いありません。

なお、DAmerの mami の項にはこのほかにも地域限定の語義がいくつか登録されており、なかには侮蔑のラベルが付いたものも含まれます。

初心者向けの本記事では立ち入りませんが、「この語は地域によって思わぬ意味を持つことがある」という点だけは、頭の片隅に置いておいてください。

こわいけど、知っておいてよかったな。かわいい響きだからって気軽に使うところだったよ。
コダック

それが分かっていれば、もう大丈夫です!

そして実は、いま見た「mami にだけ危ないラベルが付いている」という事実——これも、後で出てくる「辞書の男女の非対称」の証拠のひとつなんですよ。

その前に、みなさんが待っていたであろうあの言葉を片づけてしまいましょう!

”papi chulo”の意味 ── 実は「辞書に載っていないスラング」ではありません

レゲトンやヒップホップを聴く方なら、”papi chulo” というフレーズを耳にしたことがあるかもしれません。

「歌詞の中のスラングでしょ?辞書には載ってないよね」——そう思われがちなのですが、実はこれ、正式に辞書に立項されています

えっ、あれ辞書に載ってるんだ!てっきり歌の中だけの言葉だと思ってた。
コダック

載っているんです。しかもDLEとDAmerの両方に

ただし、ひとつだけ大事な注意点があります。辞書の見出しは2語の papi chulo ではなく、1語につなげた papichuloのほうなんですよ。

まずDLEを見てみましょう。

papichulo
De papi y chulo.
1. m. coloq. Méx., Par. y P. Rico. Hombre que, por su atractivo físico, es objeto de deseo.

papi と chulo から。男性名詞・口語。メキシコ、パラグアイ、プエルトリコその肉体的な魅力ゆえに、欲望の対象となる男性

※参考・引用「Real Academia Española, Diccionario de la lengua española

そしてDAmerには、同じ papichulo が独立した見出し語として立てられ、末尾に異形(別の綴り方)が示されています。

papichulo
I. 1. m. Mx, RD, PR, Bo, Py. Hombre que, por su atractivo físico, es objeto de deseo de una mujer.
(男性名詞。メキシコ、ドミニカ共和国、プエルトリコ、ボリビア、パラグアイ。その肉体的な魅力ゆえに、女性にとって欲望の対象となる男性)

異形:(papi chulin; papi chulo)

また papi の項にも、次の副見出しが置かれています。
~ chulo. Mx, RD, Bo. papichulo.
(「papi chulo」=メキシコ、ドミニカ共和国、ボリビア。papichulo に同じ)

※参考・引用「Asociación de Academias de la Lengua Española, Diccionario de americanismos

コダック

つまり正確に言うと、こうなります。

正式な見出し語=1語の papichulo
2語の papi chulo = その異形(バリエーション)

どちらも辞書が認めた実在の語ですので、安心して「意味はこうです」と言って大丈夫ですよ!

2つの辞書を並べると、書きぶりが少しずれている

ここで、DLEとDAmerの定義文をよく見比べてみてください。2か所、はっきりとした違いがあります。

① 「女性にとって」が消えている
DAmerは 「objeto de deseo de una mujer(女性にとっての欲望の対象)」と、誰から見て魅力的なのかを明示しています。
ところがDLE版は、そこが 「objeto de deseo(欲望の対象)」 とだけ。「女性にとって」という限定が外されているのです。

② 国が5つから3つに減っている
DAmer:メキシコ・ドミニカ共和国・プエルトリコ・ボリビア・パラグアイ(5か国)
DLE:メキシコ・パラグアイ・プエルトリコ(3か国)
⇒ ドミニカ共和国とボリビアが、DLE版では落ちています。

同じ言葉なのに、辞書によって書いてあることが違うんだ。どっちが正しいの?
コダック

どちらかが間違い、という話ではないんですよ。辞書には守備範囲があるんです。

DAmerはアメリカ大陸のことばを細かく拾う専門辞書なので、網が細かい
DLEはスペイン語全体の代表辞書なので、広く定着したものを厳しめに選ぶ

だから国の数が減り、説明もそぎ落とされる。辞書のキャラクターの違いが、そのまま出ているわけですね!

世界に広めたのは、パナマ出身の歌手だった

この語が世界的に知られるようになったきっかけは、まず間違いなく1曲のレゲトンです。

”Papi chulo… (te traigo el mmmm…)”

●歌手:Lorna(ロルナ)パナマ出身のラッパー
●リリース:2003年6月
●ジャンル:レゲトン

⇒ 中南米にとどまらずヨーロッパで大ヒットし、フランスでチャート1位、イタリア・ベルギー(ワロン)・ギリシャ・オランダでもトップ5に入りました。
⇒ この曲によって、スペイン語を知らない人にまで papi chulo という響きが届いたと言えます。

コダック

ここで、ちょっと面白い偶然があるんです。

この曲を歌った Lorna はパナマの人。そして先ほど、mami に「下品・侮蔑」のラベルが付くと辞書が書いていたのも、パナマでしたよね。

※もちろんこの2つに因果関係があるわけではありません。ただ、パナマがこの語族のにぎやかな土地であることは、なんとなく伝わってきますね!

たまたまなんだ。でも同じ国の名前が2回出てくると、なんか印象に残るな。

辞書が記録する「3つの非対称」── mami と papi は鏡写しではない

さて、いよいよこの記事の総仕上げです。

記事の前半で、生徒さんがこんな疑問を投げてくれました。「papi は3つも意味があるのに、mami は1個しかないのは不公平じゃない?」——ここに戻ってきましょう。

mami と papi は、見た目には男女できれいに対になった語に見えます。ところが辞書を丁寧に読むと、まったく対称になっていないことが分かります。

証拠を3つ、並べてみましょう。

非対称① DLEは papi にだけ「魅力的な男性」の語義を与えている

もう一度DLEを思い出してください。

papi には 「2. Hombre físicamente atractivo.(肉体的に魅力のある男性)」 という語義が立てられていました(ボリビア、メキシコ、パナマ、プエルトリコ)。

ところが mami のほうは、「mamá」の一語義のみ対応する「魅力的な女性」の語義が、DLEには立てられていません

では、そんな用法が存在しないのかというと——そうではありません。DAmerには、mami にちゃんと 「Mujer muy hermosa(とても美しい女性)」 という語義が登録されています。

つまり用法自体はあるのに、DLEが拾わなかっただけってこと?
コダック

そういうことになりますね。

男性版は看板辞書に昇格したのに、女性版は専門辞書にとどまっている同じ現象なのに、辞書に載る速度が違うわけです。

非対称② ”papito”は「話し手が女性であること」まで指定している

mami / papi には、縮小辞(「〜ちゃん」に近い働きをする語尾)を付けた形もあります。mamita / papito、さらに mamacita / papacito ですね。

これらも、きちんとDAmerに立項されています。

ここで papito の定義文を見てください。papi の定義文には無かった一節が入り込んでいます。

papito
fórm. EU, Mx, Ho, CR, Cu, PR, Co, Ve, Pe, Bo, Ar, Ur. Se usa por las mujeres para dirigirse a su novio o esposo, o por una persona mayor para dirigirse a un niño. pop. ^ afec.

(定型表現。アメリカ合衆国、メキシコ、ホンジュラス、コスタリカ、キューバ、プエルトリコ、コロンビア、ベネズエラ、ペルー、ボリビア、アルゼンチン、ウルグアイ。女性によって、恋人あるいは夫に呼びかけるために用いる。また年長者が子どもに呼びかけるためにも用いる。民衆語・愛情表現)

※参考・引用「Asociación de Academias de la Lengua Española, Diccionario de americanismos

「por las mujeres(女性によって)」…?誰が言うかまで辞書が決めてるんだ。papi のときはそんなの書いてなかったよね。
コダック

よく覚えていましたね、そのとおりです!

papi の定義文は「誰が言うか」を指定していません。ところが papito「女性が言う言葉だ」とわざわざ書いている

つまり縮小辞が付いた瞬間に、話し手の性別まで限定されるということ。辞書はここまで細かく観察しているんですよ!

非対称③ ”mamacito”という語が、辞書に存在しない

そして3つめ。これがいちばん分かりやすい非対称かもしれません。

DAmerには papacito があります。その女性形である mamacita もあります。

ところが——mamacito という見出し語は、DAmerに立項されていません

辞書にある語・ない語

papacito(男性形)⇒ あり
mamacita(女性形)⇒ あり
mamacitoなし

⇒ 語の形としては作れそうなのに、実際には使われていないので辞書にも載らない「言えるはずの言葉が、言われていない」という事実そのものが、ひとつのデータなんですね。

コダック

3つ並べてみると、方向がそろっているのが見えてきませんか?

看板辞書が「魅力的な人」の語義を与えたのは男性形だけ
「誰が言うか」を限定されたのも男性形(papito)
そもそも存在しない形があるのもこの語族の内側

そして忘れてはいけないのが、vulg.(下品)と desp.(侮蔑的)のラベルが付いたのは mami のほうだったということです。

あ…。危ないラベルが付いてるのは女性に向ける側なんだ。それ、けっこう重い話だね。
コダック

重いですが、目をそらさずに知っておくべきことだと思います。

そしてここで強調したいのは、辞書が差別をしている、という話ではないということ。辞書は実際に社会で使われているありさまを、そのまま記録しているだけなんです。

だからこそ、辞書を読むと社会が見える。語学のいちばん深い楽しみは、こういうところにありますよ!

”mami / papi”を実際に使うときの実用ガイド

最後に、初心者の方が実際に使う場面を想定して、判断の目安をまとめておきましょう。

◎ 安心して使える
自分の親に対して(=本来の「ママ」「パパ」)。これはどの地域でも問題ありません。

○ 相手が先に使ってきたら使ってよい
恋人・配偶者どうし。相手があなたを mami / papi と呼んできたなら、それが二人の言葉だという合図。返して大丈夫です。

△ 地域を確認してから
カリブ海周辺(キューバ・ドミニカ共和国・プエルトリコ)やコロンビア・ベネズエラでは日常的。一方スペインでは習慣がありません。迷ったら cariñomi amor のほうが無難です。

× 絶対に避ける
見知らぬ女性に mami と声をかけること。辞書が下品・侮蔑と明記している行為です。また仕事の相手・目上の人にも使いません(pop.=民衆語のため)。

「相手が先に使ってきたら返す」っていうのが、いちばん分かりやすくて助かるな。
コダック

愛称は自分から仕掛けるものではなく、受け取ってから返すものと考えると、ほぼ失敗しません。

そして今日いちばん覚えて帰ってほしいのは、これです。mami / papi は、辞書が国名つきで記録してくれている数少ない愛称

つまり自分の目で確かめられるということ。ぜひ一度、辞書サイトで引いてみてくださいね!

”mami / papi”の意味と使い方のまとめ

以下、”mami / papi”についてのまとめです。

●”mami”=「ママ」、”papi”=「パパ」。もとは mamá / papá の親しみをこめた形
⇒ アクセントの位置が変わる(mamá は後ろ/mami は前
⇒ DLEは両方に afect.(愛情表現) のラベルを付けている(cariño にはラベルが無いのと対照的)
この記事の核心恋人・配偶者への呼びかけという用法は、DLEには載っておらず、ASALEの『Diccionario de americanismos』が国名リストとラベル付きで明記している
⇒ papi:EU・コスタリカ・パナマ・キューバ・ドミニカ共和国・コロンビア・ベネズエラ・エクアドル・ボリビア・アルゼンチン・ウルグアイ/mami:メキシコ・パナマ・キューバ・ドミニカ共和国・プエルトリコ・コロンビア・ベネズエラ・ボリビア(エクアドルは少)
どちらのリストにもスペインは入っていない
3つの向き ⇒ ①子→親(本来)/②恋人・配偶者どうし(子どもがいなくても使う)/③大人→小さな子(①の逆流)
日本語との比較 ⇒ 日本語にも夫婦が「パパ」「ママ」と呼び合う現象があり(鈴木孝夫『ことばと文化』の指摘。言語学ではテクノニミー=子どもを経由して大人を呼ぶ。矢印は子ども→大人)、構造はよく似ている
⇒ ただし日本語は「子どもがいること」が前提。スペイン語は子どもの有無と無関係——ここが決定的な違い
【混同注意】テクノニミーと「呼称の逆転」は別現象 ⇒ ③の「大人→小さな子」はテクノニミーではありません「呼称の逆転」(address inversion/inverse vocative)話し手が、聞き手から見た自分の呼称で聞き手を呼ぶ現象で、矢印は大人→子どもと逆向き
⇒ 南イタリアの方言(”Mangia, papà!”)などでも知られる型。日本語にはこの型がほとんど無いため、日本語話者は②より③に強い違和感をおぼえる
papi chulo「辞書に無いスラング」ではありません。正式な見出し語は1語の papichuloで、DLE・DAmerの両方に立項(2語の papi chulo は異形)
⇒ 意味は「その肉体的な魅力ゆえに欲望の対象となる男性」。DAmer版にある「de una mujer(女性にとって)」がDLE版では削られ、国も5→3に絞られている
⇒ 世界に広めたのはパナマ出身 Lorna の2003年のレゲトン(フランス1位ほかヨーロッパで大ヒット)
【要注意】 ⇒ DAmerは mami に、パナマで見知らぬ女性に声をかける用法vulg.(下品)+ desp.(侮蔑的) のラベル付きで記録している。知らない相手には絶対に使わないこと
辞書が記録する3つの非対称 ⇒ ①DLEは papi にだけ「魅力的な男性」の語義を与えている(mami の「美しい女性」はDAmerのみ)/②papito は「女性が言う」と話し手の性別まで指定(papi にはその指定が無い)/③papacito・mamacita はあるのに mamacito は無い
⇒ mami と papi は男女の鏡写しではありません。辞書は差別をしているのではなく、社会で実際に起きていることを記録しているだけです
コダック
当サイトではスペイン語の愛称について、意味・使い分け・文化的な背景の面から解説を行っています。
cariño や mi amor など、他の愛称もぜひあわせてご確認いただければ幸いです!

【まとめ】スペイン語の愛称・呼びかけ表現 cariño・mi amor・cielo の使い分け

参考文献
「Real Academia Española, Diccionario de la lengua española「mami」(https://dle.rae.es/mami)」
「Real Academia Española, Diccionario de la lengua española「papi」(https://dle.rae.es/papi)」
「Real Academia Española, Diccionario de la lengua española「papichulo」(https://dle.rae.es/papichulo)」
「Asociación de Academias de la Lengua Española, Diccionario de americanismos(2010)「mami」(https://www.asale.org/damer/mami)」
「Asociación de Academias de la Lengua Española, Diccionario de americanismos(2010)「papi」(https://www.asale.org/damer/papi)」
「Asociación de Academias de la Lengua Española, Diccionario de americanismos(2010)「papichulo」「papito」「mamita」「papacito」「mamacita」各項」
「鈴木孝夫(1973)『ことばと文化』岩波新書」
「Edward B. Tylor (1889), On a Method of Investigating the Development of Institutions; Applied to Laws of Marriage and Descent, Journal of the Anthropological Institute of Great Britain and Ireland, vol. 18(=teknonymy の初出)」
「Alice Corr (2022), Address inversion in southern Italian dialects, Isogloss 8(4)/11(https://revistes.uab.cat/isogloss/article/view/v8-n4-corr)」