「lana」の意味は「羊毛」なのになぜ「お金」?メキシコのスラングを辞書で徹底解説

コダック
今日のスペイン語は”lana”

辞書を引くと、まず出てくる意味は「羊毛(ようもう)」。セーターやマフラーの「ウール」のことですね。

ところがメキシコでは、この単語が「お金」という意味で毎日のように使われているんです。“lana”=「羊毛」+(俗語で)「お金・現金」、この2階建て構造がポイントですよ!

え、羊の毛がお金?いきなり飛びすぎてない…?

”lana”の意味と使い方 「羊毛」から「お金」へ

”lana(発音:ラナ/ˈla.na【女性名詞】)”は、基本の意味として「羊毛、ウール、毛糸、ウールの生地」、そして俗語(口語)として「お金、現金」を表す単語です。

スペイン語の辞書の最高権威であるスペイン王立アカデミー(RAE)の『スペイン語辞典(DLE)』にも、きちんと両方が載っています。

RAE『スペイン語辞典』の”lana”(要約)

①羊やその他の動物の毛。糸に紡いで織物にするもの = 羊毛
②毛糸/③ウールの織物/④ウールの服
⑤(軽蔑・口語)長くて手入れされていない髪
⑥(口語)dinero = お金(流通している貨幣)

※語源欄には 「Del lat. lana.(ラテン語 lana より)」 とだけ記載

コダック

注目してほしいのはです!

RAEはここで、「lana = dinero(お金)」とはっきり書いています。しかも「メキシコだけ」といった地域限定のマークは付いていません。

つまりこれはスペイン語圏で広く通じる、辞書公認の俗語なんですよ!

そっか、スラングだけど「ちゃんと辞書に載ってる言葉」なんだね。じゃあ使っても変じゃないってこと?
コダック

はい、まったく変じゃありません!

特にメキシコでは、友達同士の会話で「お金」と言うときのいちばん自然な言い方のひとつです。下品でもなければ、若者だけの言葉でもありません。大人も普通に使いますよ!

「意味と使い方」の基本例文

【① 羊毛・ウール(辞書の基本の意味)】
・un suéter de lana
(ウールのセーター)
・un traje de lana
(ウールのスーツ)

【② お金(俗語)】
・Tiene mucha lana en el banco.
(あの人は銀行にたくさんお金を持っている。)
・No tengo nada de lana.
(お金がまったくない。)
・Préstame una lana.
(ちょっとお金を貸してよ。)

※例文は「コレヒオ・デ・メヒコ『メキシコ・スペイン語辞典(DEM)』」の記載を参考にしています

「un suéter de lana(ウールのセーター)」と「no tengo lana(お金がない)」が同じ単語なんて、なんか面白いな。

なぜ「羊毛」が「お金」になったの? lana の由来を探る

で、結局なんで羊の毛がお金になったのかが気になるな!
コダック

いい質問です!

ただ、ここは正直にお伝えしますね。RAEもDEMも、「なぜお金の意味になったか」までは書いていません。辞書が保証しているのは「そういう意味がある」という事実だけなんです。

なので由来については「有力な説」として紹介させてください!

もっともよく語られるのが、「羊毛そのものが、財産だった時代の名残」という説明です。

16世紀、スペイン人は新大陸に羊を持ち込み、メキシコ(当時のヌエバ・エスパーニャ=新スペイン)には「オブラヘ(obraje)」と呼ばれる毛織物の作業場が各地に作られました。羊毛は加工されて布になり、売れば現金になる、当時のたいへん重要な産品だったわけです。

「たくさん羊毛を持っている=たくさん財産を持っている」。この感覚が言葉に残り、やがて羊毛そのものが「お金」の言い換えになった、というストーリーですね。

コダック

要するに「その時代いちばん価値のあったモノの名前が、お金そのものを指すようになった」という流れですね!

ちなみに、この現象はスペイン語に限りません。フランス語ではblé(小麦)が「お金」の俗語ですし、英語でもbread(パン)dough(パン生地)が同じようにお金を指しますよ。

小麦もパンもお金になるんだ…!じゃあ日本語にも似たのがあるってこと?
コダック

ありますあります!

日本語の「ゼニ(銭)」は、もともと特定の貨幣の名前でしたが、いまでは「お金」全般の少しくだけた言い方になっていますよね。「シャリ(銀シャリ)」のように、食べものの名前がお金や価値の話に絡んでくることもあります。

「本来の意味からズレた、お金の呼び名」という発想そのものは、日本語話者にとってもけっこう馴染みやすいはずですよ!

”lana”が「お金」になった流れ(有力説)
ラテン語 lana(羊毛)

スペイン語 lana(羊毛・毛織物)
↓(植民地時代のメキシコで、羊毛=重要な換金作物・財産に)
「羊毛をたくさん持っている=金持ち」という感覚が定着

現代の俗語 lana(=お金、現金)

※由来については諸説あり、RAE・DEMなどの辞書は理由まで明記していません

メキシコで本当に使われる”lana”のフレーズ集

コダック

意味がわかったら、次は実際の言い回しです!

lana は単独で使うより、決まった動詞とセットで登場することがとても多いんですよ。よく出る4パターンを見ていきましょう!

1. 基本形 ”tener lana” / ”no tener lana”(お金がある/ない)

いちばんシンプルで、いちばん使う形です。tener(持つ)と組み合わせるだけ。

否定形の ”no tengo lana”(金欠なんだ) は、旅行中でも留学中でも必ず耳にする一言です。

また、人を形容するときは ”gente de lana”(お金のある人たち=富裕層)、逆に ”andar sin lana”(金欠状態でいる) という言い方もします。

【例文】
・No tengo nada de lana.
(一文なしなんだ。)
・Ese restaurante es para gente de lana.
(あのレストランはお金持ち向けだよ。)
・Ando sin lana esta semana.
(今週はずっと金欠なんだ。)

2. 金額の大きさを表す ”una lana” / ”una buena lana”(けっこうな額)

ここが少し面白いところ。不定冠詞の una を付けて ”una lana” にすると、「まとまったお金・けっこうな金額」というニュアンスになります。

さらに bueno(良い) を挟んで ”una buena lana” にすると、「かなりの大金」という意味に強まります。

【例文】
・Les salió en una lana arreglar el coche.
(車の修理は、彼らにとってけっこうな出費になった。)
・Yo que tú les cobraba una buena lana por hacerlo.
(僕が君なら、それをやるのにかなりの額を請求するけどね。)

※例文は「コレヒオ・デ・メヒコ『メキシコ・スペイン語辞典(DEM)』」の記載を参考にしています

「una」が付くだけで金額が大きくなるんだ。日本語の「ひと財産」みたいな感じかな。
コダック

まさにそのイメージです!

ただし ”Préstame una lana.”(ちょっとお金貸して) のように、軽く「ちょっとした額」を指す使い方もあります。金額の大小は文脈で決まるので、そこは会話の流れで判断しましょう!

3. 支払いの定番 ”aflojar la lana” / ”soltar la lana”(渋々払う)

この2つは、メキシコらしさが詰まった表現です。

aflojar はもともと「(ネジなどを)ゆるめる」、soltar は「手を離す、放す」という動詞。どちらも「握りしめていたものを手放す」イメージですね。

DEMは aflojar の俗語の意味を 「お金を出す。たいていは仕方なく・強いられて」 と説明しています。つまり ”aflojar la lana”=「しぶしぶ金を出す、金を吐き出す」という含みを持つわけです。

【例文】
・A la hora de la hora no quiso soltar la lana.
(いざその時になって、彼は金を出そうとしなかった。)
・Tuve que aflojar una lana para arreglarlo.
(それを直すのに、けっこうな金を出すはめになった。)

コダック

「ゆるめる(aflojar)」「手放す(soltar)」という動詞選びに、「本当は出したくないんだけどな…」という気持ちがにじみ出ていますよね!

ちなみに、お隣のエルサルバドルには ”azotar la lana”(直訳:羊毛を打つ)という似た表現もあって、RAEはこれを「お金を出す、支払う」と説明していますよ。

4. 派生語 ”lanudo”(金持ちの)

lana から生まれた形容詞が lanudo です。

もともとは「毛がふさふさの、毛深い」という意味(lanudo な犬=もじゃもじゃの犬)。ところがメキシコの俗語では、そこから「金持ちの、裕福な」という意味になります。

【例文】
・Don Aníbal es un hombre muy lanudo.
(アニバルさんはとてもお金持ちだ。)

※例文は「コレヒオ・デ・メヒコ『メキシコ・スペイン語辞典(DEM)』」の記載を参考にしています

毛がふさふさ=お金持ち!なんか「毛」と「金」がずっと重なってて分かりやすいな。

”lana”と”varo”・”feria”・”dinero”の違い

コダック

メキシコには「お金」を表す言葉がいくつもあります。せっかくなので、代表的なものとの違いも押さえてしまいましょう!

それぞれ「指している範囲」が微妙に違うのがポイントです。

”lana”とよく比較される単語
⇒「お金」を表すメキシコ語彙 ”dinero / varo / feria / plata”
なるほど…、どれを使えばいいのか迷いそうだな!
コダック

イメージの違いをまとめると、以下のようになります!

dinero⇒「辞書どおりの、まったく色のつかない標準語」=お金(誰にでも、どんな場面でも使える)
lana⇒「くだけているが上品さも下品さもない、日常の言い方」=お金・現金(友達や家族との会話向き)
varo(baro)⇒「1ペソ、2ペソと数えられる「単位」も指せる」=ペソ、お金(lana より若者っぽく荒い響き)
feria⇒「財布の中でジャラジャラいっている小銭」=小銭・細かいお金(→転じてお金全般)

といった感じです!

シチュエーションで見る!”lana / varo / feria”の使い分け

●No tengo lana.
「お金がない(=手持ちの現金がない、余裕がない)」
⇒ 財産・現金をひとかたまりで捉えるイメージ

●Quince varos la comida.
「ごはんが15ペソ」
⇒ varo は「ペソ」という通貨の単位そのものとしても使える(lana はこの使い方ができません)

●¿Me cambia un billete de cinco pesos por feria?
「5ペソ札を小銭にくずしてもらえますか?」
⇒ feria は本来「小銭・くずしたお金」を指す

●Esa botella cuesta como seis pesos y feria.
「そのボトルは6ペソちょっとくらいだよ」
⇒ ”y feria”で「〜と少し、〜いくら」という便利な言い方にもなる

※例文は「コレヒオ・デ・メヒコ『メキシコ・スペイン語辞典(DEM)』」の記載を参考にしています

lana は「お金そのもの」で、varo は「ペソという単位」、feria は「小銭」なんだね。だいぶスッキリした!

ちなみに、南米で広く使われる plata(銀) も「お金」の俗語です。こちらは「銀 = 貴金属 = 価値あるもの」という、lana とは別ルートの発想ですね。RAEの類義語欄には、lana の仲間としてスペインの pasta、アルゼンチンなどの guita、そして plataferia といった単語がずらりと並んでいます。

使う前に知っておきたい”lana”の注意点

コダック

便利な lana ですが、使うときに気をつけたいポイントが2つあります!

どちらも「知らないとちょっと恥ずかしい」タイプの落とし穴なので、ここは押さえておきましょう!

注意点1:フォーマルな場面では”dinero”を使う

lana はあくまで口語・俗語です。RAEもDEMも、はっきり「coloq.(口語)」「Popular(民衆的・俗)」というラベルを付けています。

友人との会話や市場での買い物なら最高に自然ですが、銀行の窓口、ビジネスの商談、公的な書類などでは、標準語の dinero を選びましょう。

注意点2:中米では「人」を指すと意味が変わる

ここが一番の要注意ポイントです。

スペイン語アカデミー協会(ASALE)の『アメリカ語法辞典(Diccionario de americanismos)』を引くと、lana にはお金とはまったく別の意味が載っています。

グアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドル、ニカラグア
人について言う場合 = 「日和見的な、抜け目のない人」

ホンジュラス、エルサルバドル、ニカラグア
人について言う場合 = 「詐欺師のような、人をだます人」

グアテマラ
人について言う場合 = 「口の悪い、下品な人」

えっ、同じ単語なのに国が変わると「詐欺師」になっちゃうんだ…。それは知らないと危ないな!
コダック

そうなんです!ただ、落ち着いて見分けるコツがありますよ。

「モノとして扱っていればお金、人を形容していれば要注意」と覚えてください。

”No tengo lana.”(お金がない)のような使い方は問題ありません。危ないのは ”Ese tipo es bien lana.” のように人+lanaの形になったときです!

”lana”の語源はラテン語 実は英語の”wool”と同じご先祖様

ここからは少し視点を変えて、”lana”という単語そのもののルーツを深掘りしていきましょう。

RAEが記す通り、スペイン語の lana はラテン語の lāna(羊毛)がそのまま形を変えずに受け継がれたものです。ロマンス諸語には、きれいに同じ形が並びます。

ラテン語 lāna(羊毛)の子孫たち
スペイン語:lana(ラナ)
イタリア語:lana(ラーナ)
ポルトガル語:(ラン)
フランス語:laine(レーヌ)
カタルーニャ語:llana(リャナ)
ルーマニア語:lână(ルヌ)
フランス語の laine だけちょっと形が違うけど、たしかに全部似てるな。
コダック

よく気づきましたね!

そして、ここからが語源のいちばん面白いところです。実はこの lāna、英語の”wool(羊毛)”と、ずっと昔をたどると同じ祖先にたどり着くんですよ!

えっ、lana と wool が親戚?全然似てないのに?

ラテン語 lāna は、さらに遡ると印欧祖語(インド・ヨーロッパ祖語)の *h₂wĺ̥h₁neh₂(=羊毛)という形にたどり着くとされています。

この印欧祖語の同じ語根から枝分かれしたのが、英語の wool、ドイツ語の Wolle、古代ギリシャ語の λῆνος(lênos)、サンスクリット語の ऊर्णा(ūrṇā) といった単語たちです。

先頭の w の音がラテン語で落ちて l だけが残った……そう考えると、まったく似ていない lana と wool が急に親戚に見えてきませんか?

”lana”の語源(起源~発祥まで)
印欧祖語:*h₂wĺ̥h₁neh₂(羊毛)
↓(枝分かれ)
├→ ゲルマン語系 → 英語 wool/ドイツ語 Wolle
└→ イタリック語派 → ラテン語 lāna
   ↓
   スペイン語 lana(羊毛)
   ↓(メキシコの俗語として意味が拡張)
   スペイン語 lana(お金・現金)
コダック

さらにもう一つ、日本人にも馴染みのある単語をご紹介しますね!

化粧品やハンドクリームの成分表示で見かける「ラノリン(lanolin)」。あれは羊毛から採れる油脂のことですが、語源はまさにラテン語の lāna(羊毛)+ oleum(油)、つまり「羊毛の油」なんです!

ラノリンの「ラノ」が lana だったんだ!身近なところに隠れてたんだね。
コダック

そうなんです!

「羊毛」というたった一つのラテン語が、片方では英語の wool やラノリンになり、もう片方ではメキシコの街角で「金くれよ」という意味で使われている。

言葉の旅路って、本当に面白いですよね!

”lana”の意味と由来・使い方のまとめ

以下、”lana”の意味と使い方についてのまとめです。

●”lana”はラテン語 lāna(羊毛)を受け継いだ女性名詞
⇒基本の意味は「羊毛・ウール・毛糸」
⇒RAEの辞書にも載る口語表現として「お金・現金」の意味を持つ(特にメキシコで多用)
●由来は「羊毛=財産だった時代の名残」という説が有力(※辞書は理由まで明記せず、諸説あり)
●定番フレーズ ⇒ tener lana(お金がある)/no tengo lana(金欠だ)/una buena lana(かなりの大金)/aflojar・soltar la lana(しぶしぶ払う)/lanudo(金持ちの)
●使い分け ⇒ dinero(標準語)/lana(日常の現金)/varo(ペソという単位も指せる)/feria(小銭)
●注意 ⇒ フォーマルな場では dinero を使う。また中米(グアテマラ・ホンジュラス等)でを lana と形容すると「抜け目のない人・詐欺師」の意味になる
コダック

スペイン語には、こんなふうに「辞書の意味」と「街で使われる意味」が二重になっている単語がたくさんあります。

両方セットで覚えてしまえば、教科書のスペイン語も、現地のリアルな会話も、どちらも怖くありませんよ!

よし、まずは「No tengo lana.」から使ってみるよ。…なんか悲しい第一声だけど!
参考文献
「Real Academia Española, Diccionario de la lengua española (DLE), 23.ª edición」
「Asociación de Academias de la Lengua Española, Diccionario de americanismos (2010)」
「Diccionario del español de México (DEM), El Colegio de México」
「Wiktionary(ラテン語 lāna / lanolin の語源記述)」