読み方は「カリーニョ」。「リ」のところを少し強く読みます。名詞の「愛情・親愛の情」と、呼びかけの「ねえ/あなた」という、まったく違う二つの顔を持つ単語ですよ!
スペイン語圏のドラマや映画を見ていると、家族や恋人どうしが1日に何度も口にするレベルの超頻出語です。
いいところに気づきましたね!実はそこがこの単語の面白さなんです。
しかも驚くことに、スペイン王立アカデミーの看板辞書には「呼びかけ」の意味が載っていません。毎日みんなが使っているのに、です。この記事ではその謎も含めて、まるごと解き明かしていきますよ!
- 1 ”cariño”の意味と使い方 コアイメージは「そばにいてほしい人への気持ち」
- 2 【最大の謎】”cariño”の呼びかけ用法は、王立アカデミーの看板辞書に載っていない
- 3 ”cariño”の文法・語法 ”tener cariño a”を最優先で覚えよう
- 4 ”cariño”の語源は「欠けている」?辞書に残る「郷愁」が動かぬ証拠
- 5 日本語には「愛称で呼び合う習慣」自体が薄い?だから”cariño”は訳しにくい
- 6 ”cariño”と”caricia”は似ているのに、生まれがまるで逆だった
- 7 ”cariño”と他の愛称の違い cielo / mi amor / mi vida / corazón
- 8 ”cariño”の意味と語源・覚え方のまとめ
”cariño”の意味と使い方 コアイメージは「そばにいてほしい人への気持ち」
”cariño(発音:カリーニョ/ka-RI-nyo【男性名詞】)”は、「愛情」「親愛の情」「いつくしみ」を意味する名詞です。
スペイン語では男性名詞なので、冠詞をつけるときは el cariño、un cariño の形になります。
スペイン王立アカデミー(RAE)の辞書『Diccionario de la lengua española(通称DLE)』には、次の5つの語義が登録されています。
cariño
Etim. disc.; cf. lat. carēre ‘carecer’, arag. cariño ‘nostalgia’.1. m. Inclinación de amor o buen afecto que se siente hacia alguien o algo.
(男性名詞。誰か、あるいは何かに対して感じる、愛や好意の傾き)2. m. Manifestación de cariño. U. m. en pl.
(男性名詞。愛情の表れ。多くは複数形で用いる)3. m. Añoranza, nostalgia.
(男性名詞。郷愁、ノスタルジー)4. m. Esmero o afición con que se hace una labor o se trata una cosa.
(男性名詞。ある仕事をしたり、ある物を扱ったりするときの丁寧さ・入れ込み)5. m. Regalo, obsequio.
(男性名詞。贈り物、プレゼント)※参考・引用「Real Academia Española, Diccionario de la lengua española」
正直な反応、大歓迎です!実はその「3番の郷愁」こそが、この単語の秘密を解くカギなんです。あとの章でじっくり種明かしをしますね。
まずは初心者の方が最優先で覚えるべき1番の「愛情」から、しっかり押さえていきましょう!
この単語のコアイメージは、「そばにいてほしい、大切にしたい」と心が傾く気持ちです。
日本語の「愛」というと大げさに聞こえますが、cariño はもっと守備範囲が広く、恋人への愛情も、家族へのいつくしみも、友だちへの親しみも、さらには長年使った古いソファへの愛着までカバーします。
実際、RAEが学習者向けに出している『Diccionario del estudiante(学習者辞典)』では、cariño の第1語義がこう説明されています。
cariño
1. m. Sentimiento de afecto hacia alguien o algo que se desea tener cerca.
(男性名詞。そばに置いておきたいと願う誰か、あるいは何かに向けられる愛情の気持ち)
「que se desea tener cerca(そばに置いておきたいと願う)」——この一節が、cariño の本質を見事に言い当てています。ただ好きなのではなく、「近くにいてほしい」という距離の感覚がこの単語には含まれているんですね。
この「そばにいてほしい」という感覚、ぜひ頭の片隅に置いておいてください。
のちほど語源の話をするときに、この感覚がきれいにひっくり返る瞬間がやってきますよ!
「意味と使い方」の基本例文
【名詞:愛情・親愛の情】
・Se tienen mucho cariño.
(あの二人はお互いをとても大切に思っている。)
・Su cariño a los gatos es enorme.
(彼女の猫への愛情は並大抵ではない。)
・Le tenía cariño al viejo sofá y le costaba desprenderse de él.
(彼はその古いソファに愛着があって、手放すのがつらかった。)【名詞:愛情表現・スキンシップ(多くは複数形)】
・El niño le hace cariños al bebé.
(その男の子は赤ちゃんをなでなでしてあげている。)【名詞:丁寧さ・心づかい】
・Trata las copas con cariño, que son de cristal fino.
(グラスは薄いガラスだから、丁寧に扱ってね。)【呼びかけ:ねえ、あなた】
・Oye, cariño, ¿has visto mis gafas?
(ねえ、私のメガネ見なかった?)※参考・一部例文引用「Real Academia Española, Diccionario del estudiante」
その感覚、大正解です!
amor(愛)が燃え上がるような強い感情だとすれば、cariño はじんわりと温かい、日常の親しみ。だから恋人だけでなく、おばあちゃんにも、犬にも、思い出のソファにも使えるんですよ!
【最大の謎】”cariño”の呼びかけ用法は、王立アカデミーの看板辞書に載っていない
ここからが、この記事のいちばんの見どころです。
スペイン語圏のドラマを見ていると、こんなセリフが山ほど出てきます。
呼びかけの”cariño”実例
●Buenos días, cariño.
「おはよう、ねえ」
●Cariño, ya está la cena.
「ねえ、ごはんできたよ」
●No te preocupes, cariño.
「心配しないで、大丈夫だから」
●Gracias, cariño.
「ありがとう、あなた」
このように、cariño は相手の名前の代わりに使う「呼びかけ語」として、日常会話でひっきりなしに登場します。
ところが——先ほど引用したDLEの5つの語義を、もう一度よく見てみてください。
「呼びかけとして使う」という説明が、どこにも書かれていないのです。
鋭いです!しかも面白いことに、他の愛称語にはちゃんと「呼びかけ」と書いてあるんですよ。
比べてみると、この不思議さがよくわかります!
cielo(空・天国)
7. m. U. como apelativo cariñoso para dirigirse o aludir a una persona. Mi cielo. Cielo mío.
(男性名詞。人に呼びかけたり、人を指したりするときの愛情のこもった呼称として用いる。Mi cielo. Cielo mío.)mi vida(私の人生)
1. expr. U. para dirigirse cariñosamente a una persona, especialmente con la que se mantiene una relación de intimidad.
(成句。人に親しみを込めて呼びかけるために用いる。特に親密な関係にある相手に対して)nene, na(幼い子ども)
2. m. y f. afect. coloq. Persona joven o adulta. U. m. en vocat. No te enfades, nena.
(男性・女性名詞。愛情語・口語。若者あるいは大人。主に呼格(呼びかけ)で用いる。「怒らないでよ、ねえ」)churri(恋人)
2. m. y f. coloq. Esp. Persona con quien se mantiene una relación amorosa. U. t. como apelativo cariñoso.
(男性・女性名詞。口語・スペイン。恋愛関係にある相手。愛情のこもった呼称としても用いる)guapo, pa(美しい)
4. adj. coloq. U. en vocativo, vacío de significado, como expresión de cariño, a veces con retintín o con tono de irritación. Cállate un poquito, guapo.
(形容詞・口語。呼格で用いる。意味は空っぽで、愛情の表現として。ときに皮肉や苛立ちの調子を伴う。「ちょっと黙ってて、ねえ」)※参考・引用「Real Academia Española, Diccionario de la lengua española」
ご覧のとおり、DLEは「これは呼びかけに使う語ですよ」と示すための書き方をちゃんと持っているのです。
ところが、ここで2つの奇妙な点が浮かび上がります。
・① 書き方が5通りにばらついている
cielo「U. como apelativo cariñoso para dirigirse o aludir a una persona」/churri「U. t. como apelativo cariñoso」/guapo「U. en vocativo… como expresión de cariño」/nene「afect.」+「U. m. en vocat.」/mi vida「expr. U. para dirigirse cariñosamente…」
——同じ「呼びかけに使う」を伝えるのに、統一された一つの型が無いのです。
・② 付いていない語がある
愛称の代表格である cariño にも、同じくらいよく使われる corazón にも、これらの書き方がどれ一つ付いていません(corazón は8つある語義のどこにも呼びかけの記述がありません)。
つまりこれは、「cariño だけが仲間はずれにされている」という話ではありません。正確に言えば、呼びかけ用法へのラベルの付け方そのものが、DLE全体で不揃いになっているということなのです。
そこを正確に捉えられたのは素晴らしいです!
辞書は完成した石碑ではなく、膨大な語をすこしずつ手作業で整備し続けている、途上のもの。だからこうした「ムラ」が残るんですね。
この話、ぜひご自分の目で確かめてみてください! DLEのサイトで cielo と cariño を続けて引いてみるだけです。片方には呼びかけの説明があり、もう片方には無い——それが1分で確認できますよ。
ただし、RAEの「学習者辞典」にはちゃんと載っている
では、cariño の呼びかけは辞書に一切載っていないのかというと、そうではありません。
同じRAEが編んだ『Diccionario del estudiante(学習者辞典)』を開くと、第1語義の説明の続きに、こう書かれています。
cariño
1. m. Sentimiento de afecto hacia alguien o algo que se desea tener cerca. (…) Se usa para dirigirse a una persona que es objeto de ese sentimiento. Oye, cariño, ¿has visto mis gafas?(男性名詞。そばに置いておきたいと願う誰か・何かに向けられる愛情の気持ち。(中略)その気持ちの対象である人に呼びかけるために用いる。「ねえ、私のメガネ見なかった?」)
つまり正確に言うと、「RAEの辞書どうしが食い違っている」という状態なんです!
学習者向けの辞書はすでに「呼びかけに使う」と書いている。ところが看板辞書であるDLEのほうが、まだそれに追いついていない。同じ組織が作っているのに、です。
そのとおりです!むしろ「辞書に載る前から、みんなが当たり前に使っている」ということ。
言葉は辞書が決めるのではなく、話し手が使うから言葉になる。cariño はそれを目の前で見せてくれる、生きた実例なんですよ!
呼びかけの”cariño”を使うときの3つのポイント
実際に使うときに、初心者の方がつまずきやすいポイントを3つ整理しておきましょう。
・① 男女どちらに対しても形が変わらない
cariño は名詞なので、guapo / guapa のように語尾が変化しません。相手が男性でも女性でもcariñoのまま。初心者にとっては非常にありがたいポイントです。
・② 使う相手は「親しい人」
恋人・配偶者・子ども・孫・親しい友人などに使います。上司や取引先、初対面の相手には使いません(=敬意ではなく親密さを示す言葉だからです)。
・③ 恋愛関係だけの言葉ではない
親が子に、祖母が孫に、友人どうしで——という使い方もごく普通です。「愛の告白」ではなく「親しみの合図」だと考えてください。
そうなんです、そこが cariño の使いやすさですね!
なお地域差もあって、スペインでは特に日常的で、カフェの店員さんがお客さんに「¿Algo más, cariño?(他にご注文は?)」と言うような場面もあります。
一方中南米では mi amor / corazón / mi vida のほうがよく耳に入ってくる地域も多いですよ。
”cariño”の文法・語法 ”tener cariño a”を最優先で覚えよう
意味がつかめたら、次は実際の文の中でどう組み立てるかです。cariño は名詞なので、「どの動詞・どの前置詞と一緒に使うか」がそのまま使いこなしの決め手になります。
1. 最重要の構文 ”tener cariño a 人”
cariño の構文で真っ先に覚えるべきは、”tener cariño a 人”(人に愛情・愛着を持っている)です。
日本語だと「〜が好きだ」と一語の動詞で言いますが、スペイン語では「cariño(愛情)を持っている(tener)」と、感情を”所有物”のように扱うのがポイントです。
【例文】
・Le tengo mucho cariño a mi abuela.
(私は祖母のことをとても大切に思っている。)
・Se tienen mucho cariño.
(あの二人はお互いをとても大切に思っている。)
・Les tengo cariño a mis alumnos.
(私は生徒たちに愛着を持っている。)
するどい!まさに2回言っています。でもこれ、スペイン語ではまったく自然なんです。
le(間接目的語の代名詞)で「誰に向けての気持ちか」をあらかじめ示しておいて、a mi abuela でその中身を具体的に明かす。日本語でいえば「あの人にはね、祖母にはね、愛着があるんだ」と念を押すような感覚ですよ!
なお、対象が「人」ではなく「物」や「事」の場合は、a のほかに por も使われます。
【例文】
・Su cariño a los gatos es enorme.
(彼女の猫への愛情は並大抵ではない。)
・Siento un gran cariño por esta ciudad.
(私はこの街に大きな愛着を感じている。)
2. 手紙・メッセージの結びに使う ”con cariño”
”con cariño”(愛情をこめて)は、cariño のもうひとつの超頻出フレーズです。
手紙やメッセージの結びに置けば「愛をこめて」、動詞にかければ「優しく・丁寧に」という意味になります。
【例文】
・Con cariño, Ana.
(愛をこめて、アナより。※手紙の結び)
・El padre lo abrazó con cariño.
(父親は優しく彼を抱きしめた。)
・Trata las copas con cariño, que son de cristal fino.
(グラスは薄いガラスだから、丁寧に扱ってね。)
・Recuerdo con cariño aquellos años.
(あの頃を懐かしく思い出す。)
3つ目の「グラスを con cariño で扱う」に注目してください。
グラスに恋しているわけではありませんよね(笑)。ここでの cariño は「対象を大事に扱う心づかい」のこと。DLEの語義4「esmero(丁寧さ)」がまさにこれですよ!
3. 複数形 ”cariños”は「スキンシップ・愛情表現」
DLEの語義2に 「U. m. en pl.(多くは複数形で用いる)」 という但し書きがあったのを覚えているでしょうか。
cariño は複数形 cariños になると、気持ちそのものではなく「気持ちの表れ=なでる、抱きしめる、優しい言葉をかける」といった具体的なふるまいを指します。
【例文】
・El niño le hace cariños al bebé.
(その男の子は赤ちゃんをなでなでしてあげている。)
・Al perro le encantan los cariños.
(その犬はなでられるのが大好きだ。)
単数と複数で意味がずれるのは、スペイン語の名詞にはよくあることです。
単数の cariño = 心の中の気持ち
複数の cariños = 外に出てきた行動
こう覚えておけばバッチリですよ!
4. ”mi cariño”と”cariño mío” ── 相手が女性でも”cariña”にはならない
愛称は「私の〜」という形でもよく使われます。cariño の場合、次の2つの形があります。
【例文】
・Buenos días, mi cariño.
(おはよう、私の大切な人。)
・No llores, cariño mío.
(泣かないで、いとしい人。)
ここで初心者の方がほぼ確実につまずくのが、「相手が女性なら cariña mía になるのでは?」という疑問です。
答えはいいえ。相手が女性でも男性でも、cariño mío のままです。
とても大事な質問です!ここにはスペイン語の性の仕組みが丸ごと詰まっていますよ。
ポイントは、mío が一致するのは「呼びかけている相手」ではなく「cariño という名詞」だということ。
そして cariño は男性名詞。だから所有形容詞も男性形 mío になるんです。相手の性別は、この計算にまったく関係ありません!
その理解、完璧です!
これは guapo / guapa(イケメン/美人) のような形容詞由来の愛称と決定的に違うところ。あちらは相手に合わせて形が変わりますが、名詞である cariño は変わらない。この違いを押さえておくと安心ですよ!
なお mi cariño と cariño mío は、どちらも「私の大切な人」ですが、語順によって手ざわりが少し変わります。
”mi cariño”と”cariño mío”の使い分け
●mi cariño(名詞の前に mi)
⇒ ふだんづかいの自然な形。会話で気軽に使われます。
●cariño mío(名詞の後ろに mío)
⇒ 所有をあえて後ろに置くことで感情がぐっと強調されます。呼びかけとして少し芝居がかった・情感のこもった響きになり、歌詞や手紙、感極まった場面でよく登場します。
5. ”tomar cariño a”と”encariñarse con” ── 愛着が「生まれる」言い方
tener cariño a が「すでに愛着がある(状態)」を表すのに対し、「だんだん愛着が芽生えた(変化)」を言いたいときの表現もセットで覚えておきましょう。
【例文】
・Le tomé cariño al perro enseguida.
(私はすぐにその犬に情がわいた。)
・Me he encariñado con este barrio.
(私はこの街区に愛着がわいてしまった。)
encariñarse は、DLEに次のように登録されている動詞です。
encariñar
1. tr. Aficionar a alguien, despertar o excitar cariño hacia algo. U. m. c. prnl.(他動詞。誰かに好意を抱かせる、何かに対する cariño を目覚めさせる・かき立てる。多くは再帰動詞として用いる。)
※参考・引用「Real Academia Española, Diccionario de la lengua española」
見てのとおり、encariñar はcariño から作られた動詞ですね!
「U. m. c. prnl.(多くは再帰動詞として)」とあるので、実際の会話ではほぼ encariñarse con 〜 の形で登場します。前置詞が a ではなく con になる点に注意してくださいね。
最後にひとつ、初心者が知らないと事故になりかねない注意点をお伝えしておきます。
スペインでは「愛着がわく」を coger cariño a と言うこともあります。しかし——
動詞 coger(取る、つかむ)には、DLEに次の語義が登録されています。
coger
intr. vulg. Am. Cen., Arg., Bol., Méx., Par., R. Dom., Ur. y Ven. Realizar el acto sexual.(自動詞。下品な語。中米、アルゼンチン、ボリビア、メキシコ、パラグアイ、ドミニカ共和国、ウルグアイ、ベネズエラ。性行為をする。)
※参考・引用「Real Academia Española, Diccionario de la lengua española」
ここで注目してほしいのが、RAEがこの語義に「国名のリスト」をきっちり添えているという点です。
・DLEが vulg.(下品) のラベルを付けているのは、メキシコ・アルゼンチン・中米・ボリビア・パラグアイ・ドミニカ共和国・ウルグアイ・ベネズエラです。
・一方、コロンビア・チリ・ペルー・エクアドル・キューバ・プエルトリコなどはこのリストに入っていません。つまり「中南米では危ない語」と一括りにするのは不正確で、あくまで国によって事情が違うということです。
・もちろんスペインでは、ごく普通の日常語として何の問題もなく使われます。
そこで実用的なアドバイスです。上に挙げた国々で話すときは、coger cariño a ではなく tomar cariño a や encariñarse con を選んでおくほうが無難でしょう。
(※これは辞書が「そう言い換えなさい」と勧めているわけではなく、誤解を避けるための実用上の判断です。)
まさにそこが大事なんです!
スペイン語の地域差は「スペイン対中南米」で割り切れるものではなく、国ごとに線が引かれていることが本当に多いんですよ。
だからこそ、辞書のラベルに書かれた国名まで見るクセをつけておくと、ぐっと正確になりますよ!
”cariño”の語源は「欠けている」?辞書に残る「郷愁」が動かぬ証拠
さて、お待たせしました。ここからは cariño の語源に踏み込んでいきましょう。
先ほど保留にしていたDLEの語義3「Añoranza, nostalgia(郷愁、ノスタルジー)」の謎が、ここで一気に解けます。
まず、DLEが cariño の見出しに添えている語源表示を、もう一度見てみましょう。
Etim. disc.; cf. lat. carēre ‘carecer’, arag. cariño ‘nostalgia’.
(日本語訳:語源は諸説あり。ラテン語の carēre「欠く、持っていない」、およびアラゴン語の cariño「郷愁」を参照のこと。)
※参考・引用「Real Academia Española, Diccionario de la lengua española」
そこがこの語源の、いちばんロマンチックなところなんです!
考えてみてください。人の大切さを本当に思い知るのは、その人が「いない」ときではありませんか?
「欠けている」→「恋しい」→「愛おしい」。この道すじをたどると、まったく矛盾していないんですよ。
そして、この説を裏づける決定的な証拠が、実はDLEの中にもうひとつ隠れています。
それが cariñar という動詞です。
cariñar
Cf. cariño.
intr. Ar. Sentir nostalgia o añoranza. U. t. c. prnl.(自動詞。アラゴン地方の語。郷愁や懐かしさを感じる。再帰動詞としても用いる。)
※参考・引用「Real Academia Española, Diccionario de la lengua española」
まさにそこです!これはとても大きなヒントですよ。
スペイン北東部アラゴン地方の言葉として今も生き残っている cariñar は、「愛する」ではなく「いない人を恋しく思う」という意味。
つまりこの語族の古い層には、「愛情」ではなく「不在への切なさ」が眠っているんです。
スペイン語の語源研究で最も権威のある『スペイン語批判的語源辞典(DECH)』のコロミナス(Corominas)も、cariño は「echar de menos(〜がいなくて寂しい)」を意味する方言の動詞 cariñar から生まれた名詞で、そのルーツはラテン語の CARERE「欠く」だと説明しています。
コロミナスによれば、cariño がスペイン語の文献に初めて姿を見せるのは1514年ごろ。劇作家フアン・デル・エンシーナ(Juan del Encina)とルカス・フェルナンデス(Lucas Fernández)の作品です。
実は「ポルトガル語由来説」もあった ── コロミナスが退けた理由
cariño の語源には、かつて有力なライバル説がありました。「ガリシア語・ポルトガル語の caro(愛しい)に縮小辞がついたものが、スペイン語に入ってきた」という説です。
ポルトガル語には今も carinho という単語があるので、一見もっともらしく聞こえます。
しかしコロミナスは、次の3点を挙げてこの説を退けました。
・① cariño が形容詞だった証拠が無い
caro(愛しい)は形容詞です。そこから縮小辞で派生したのなら、cariño にも形容詞だった痕跡が残るはず。ところがその形跡がまったく見つからないのです。
・② 隣の言語のほうが記録が新しい
借りたのなら、貸した側により古い記録があるはず。ところがガリシア語・ポルトガル語に19世紀より前の使用例が確認できません。スペイン語の1514年より、はるかに後なのです。
・③ 意味がむしろ遠い
ポルトガル語の carinho は「愛撫、いつくしみ」の意味で、「郷愁」という古い語義から遠ざかった形。借り元としては不自然です。
まさに語源研究の醍醐味です!
「似ているから同じ起源だろう」という直感を、年代と意味の記録で一つずつ検証していく。その結果として、遠回りに見えた「欠く」説のほうが残ったわけですね。
そして周辺の言語を見渡すと、この「欠く」説はさらに説得力を増します。
周辺の言語に残る”cariñ-”の仲間たち
●アラゴン語:cariñar(郷愁を感じる、恋しく思う)
●マヨルカのカタルーニャ語:carinyar(愛撫する)
●サルデーニャ語:carignare(強く望む)/carignamentu(愛情)
⇒ 「恋しく思う」と「愛情を示す」が、地域ごとに分かれて定着したのがよくわかります。
これらを一本の線に並べると、cariño という単語がたどった道すじが浮かび上がってきます。
ラテン語:carēre(欠く、持っていない)
↓(「持っていない」→「失って寂しい」へ)
方言の動詞:cariñar(いない人を恋しく思う、郷愁を感じる)
↓(動詞から名詞が生まれる)
古い cariño:郷愁、恋しさ【←DLEの語義3として現存!】
↓(「恋しい」→「愛おしい」へ意味が反転)
現代スペイン語:cariño(愛情・親愛の情/呼びかけの「ねえ、あなた」)
ここでもう一度、学習者辞典の定義を思い出してください。
「que se desea tener cerca(そばに置いておきたいと願う)」——現代の辞書がわざわざこう書いているのは、偶然ではないのかもしれませんね。
「そばに置いておきたい」の裏側には、いつも「離れたら寂しい」が貼りついている。何百年も前の語源が、今の定義文にまで影を落としているんです!
その感動こそ、語源を学ぶいちばんのごほうびです!
ただし念のため。DLEは「Etim. disc.(語源は諸説あり)」とはっきり断っています。これは確定した事実ではなく、有力な説のひとつだという点だけは、正確に押さえておきましょうね。
日本語には「愛称で呼び合う習慣」自体が薄い?だから”cariño”は訳しにくい
ここで少し視点を変えて、日本語との比較をしてみましょう。
実は cariño が日本語話者にとって難しいのは、単語の意味が難しいからではありません。日本語にはそもそも「愛称で呼び合う」という習慣自体が薄いからなのです。
まさにそこなんです!日本語で人を呼ぶときの主役は、「名前+さん/ちゃん/君」ですよね。
教科書では夫婦の呼びかけとして「あなた」が紹介されることもありますが、実際にはかなり古風な響き。「ダーリン」「ハニー」に至っては、ほとんど冗談として使われるのが実情です。
つまり日本語には、「名前の代わりに愛情語で相手を呼ぶ」という枠がほぼ空いているのです。
だからこそ、スペイン語の cariño を日本語に訳そうとすると、途端に手が止まります。
・Cariño, ya está la cena.
→「ねえ、ごはんできたよ」(呼びかけの間投詞として処理)
→「あなた、ごはんできたよ」(夫婦の場面なら)
→「ごはんできたよ」(思いきって訳さない)
※字幕や翻訳では、この3パターンが場面に応じて使い分けられます。どれも正解であり、どれも完全ではない——それは日本語側に対応する言葉が用意されていないからです。
見事なまとめです!
だから初心者の方は、cariño を「日本語の何かに置き換えて覚える」のをいったんやめてみてください。「親しい人を呼ぶときにポンと添える音」として、そのまま身体に入れてしまうほうが早いですよ!
唯一の橋渡し役は「〜ちゃん」=縮小辞 -ito / -ita
とはいえ、日本語にもスペイン語の愛情表現に近い仕組みがひとつだけあります。それが「〜ちゃん」です。
スペイン語でこの「〜ちゃん」に近い働きをするのが、縮小辞 -ito / -ita です。
-ito, ta
Del lat. vulg. *-īttus.
suf. Tiene valor diminutivo o afectivo.(俗ラテン語 *-īttus より。接尾辞。縮小、あるいは愛情の価値を持つ。)
※参考・引用「Real Academia Española, Diccionario de la lengua española」
注目してほしいのは 「valor diminutivo o afectivo(縮小、あるいは愛情の価値)」 という説明。「小さい」と「かわいい・愛おしい」が、一つの接尾辞の中に同居しているのです。
これは日本語の「〜ちゃん」とまったく同じ発想ですよね。
-ito / -ita は「〜ちゃん」感覚
●amor → amorcito(愛 → 「あなたちゃん」的な、より甘い呼びかけ)
●Juan → Juanito(フアン → 「フアンちゃん」)
●abuela → abuelita(祖母 → 「おばあちゃん」)
●gato → gatito(猫 → 「猫ちゃん」)
⇒ 縮小辞は、実際のサイズではなく「話し手の気持ちの近さ」を表すことが非常に多いパーツです。
abuelita は「小柄なおばあさん」という意味ではありません。「大好きなおばあちゃん」という気持ちの表明なんです。
この感覚がつかめると、スペイン語圏の会話に -ito / -ita があふれている理由が、すっと腑に落ちますよ!
【落とし穴】”cariñito”は「愛しい人ちゃん」ではない
さて、ここまで読むと、こう考えたくなりませんか。
「cariño に -ito をつけて cariñito にすれば、もっと甘い呼びかけになるのでは?」
その発想はとても自然です。……が、ここに大きな落とし穴があります!
中南米の多くの地域で cariñito は、人への呼びかけではなく「ちょっとした贈り物」を指すんですよ。
スペイン語圏22の言語アカデミーが共同で編んだ『Diccionario de americanismos(アメリカ語法辞典)』を引くと、cariño と cariñito はこう説明されています。
cariño
I. 1. m. Ni, RD, Co:C, Pe, Bo, Ar:NO. Regalo que se hace a alguien como muestra de afecto. ◆ cariñito.(男性名詞。ニカラグア、ドミニカ共和国、コロンビア中部、ペルー、ボリビア、アルゼンチン北西部。愛情のしるしとして人に贈る贈り物。同義語:cariñito)
cariñito
I. 1. Ni, CR, Pa, RD, Co, Ec, Bo; Ch → cariño.
II. 1. m. Ho. Cobro ilegal por algo. sat.(Ⅰ. ニカラグア、コスタリカ、パナマ、ドミニカ共和国、コロンビア、エクアドル、ボリビア、チリ。→ cariño(=贈り物)
Ⅱ. 男性名詞。ホンジュラス。何かに対する不正な徴収=袖の下。※皮肉な言い方)※参考・引用「Asociación de Academias de la Lengua Española, Diccionario de americanismos」
危ないところでしたね(笑)。でも、ここでDLEの語義5を思い出してください。
「5. m. Regalo, obsequio.(贈り物)」——最初に引用したとき「なんでこれが?」と思いましたよね。その謎が、いまここで回収されたんです!
つまり、「愛情を示すもの」→「愛情のしるしとして渡す品」→「贈り物」という意味の広がりが、中南米ではしっかり根づいているということ。DLEが語義5に載せていた「Regalo, obsequio」は、決して飾りではなかったのです。
・cariñito は避けるのが無難(中南米では「贈り物」の意味になる地域が多数)
・甘い呼びかけを作りたいときは amorcito(amor + -ito)、corazoncito(corazón + -ito)などが安全です
・そして何より、cariño はそのままの形で十分に愛情のこもった呼びかけ。無理に縮小辞をつける必要はありません。
縮小辞は便利ですが、「どんな語にも自由につけられるわけではない」のが要注意ポイント。
語によっては、-ito がついた形がまったく別の意味で先に定着してしまっていることがあるんです。cariñito はその代表例ですね!
”cariño”と”caricia”は似ているのに、生まれがまるで逆だった
ここで少しだけ、先ほどの語源の話に戻らせてください。cariño の生い立ちには、もうひとつ面白いおまけがあるんです。
スペイン語には caricia(愛撫、なでること) という単語があります。cariño とスペルも意味もよく似ていますよね。当然、同じ家族だろうと思うところです。
caricia
Del it. dialect. carizze, var. del it. carezza, y este der. de caro ‘querido’.(イタリア語方言の carizze より。イタリア語 carezza の異形で、これは caro「愛しい」に由来する。)
※参考・引用「Real Academia Española, Diccionario de la lengua española」
並べてみると、その対比は鮮やかです。
似た者どうしの、正反対の出自
●caricia(愛撫)
⇒ イタリア語経由で、ラテン語 cārus「愛しい」から
⇒ 出発点は「そこに愛がある」
●cariño(愛情)
⇒ ラテン語 carēre「欠く」から(※諸説あり)
⇒ 出発点は「そこに愛(=相手)が無い」
⇒ 現代ではどちらも愛情を表す語として隣り合っているのに、片方は「在る」から、もう片方は「無い」から出発しているのです。
そしてもうひとつ、この2語を並べると辞書の書きぶりの違いが際立ちます。
2つの語源表示を、もう一度見比べてみてください。
caricia は 「Del it. dialect. carizze…(イタリア語方言の carizze より)」と言い切っています。
ところが cariño は 「Etim. disc.; cf. …(語源は諸説あり。〜を参照)」と、断定を避けているんです!
まさにそこが面白いところです!
身近な言葉ほど来歴がはっきりしているとは限らないんですね。むしろ古くから話し言葉の中で育った語ほど、文字の記録が残りにくい。
cariño の「Etim. disc.」は、辞書の手抜きではなく誠実さの表れ。分からないことを分からないと書いてあるからこそ、私たちも安心して「有力な説」として学べるわけです!
素敵なまとめですね!
「そばにあるものをなでる愛(caricia)」と、「そばに無いものを恋しがる愛(cariño)」。愛情には二つの入り口があるということを、スペイン語の語彙そのものが教えてくれているようですね。
”cariño”と他の愛称の違い cielo / mi amor / mi vida / corazón
せっかく cariño を覚えるのですから、よく一緒に使われる他の愛称もまとめてチェックしておきましょう!
どれも日本語にすると「あなた」「ねえ」になってしまいますが、元になっているイメージがそれぞれ違うんですよ。
⇒ 呼びかけに使われる代表的な愛称 ”cielo / mi amor / mi vida / corazón / tesoro”
元イメージで見る!スペイン語の愛称5つ
●cariño(愛情)
⇒「そばにいてほしいという気持ち」そのもので呼ぶ。もっとも守備範囲が広く、恋人・家族・友人までカバーする万能型。
●cielo / mi cielo(空・天国)
⇒「あなたは私の空」。DLEにも愛情のこもった呼称としてはっきり登録されている一語。
●mi amor(私の愛)
⇒ もっとも直球。中南米では日常的に飛び交いますが、相手や場面によっては重く響くこともあります。
●mi vida(私の人生)
⇒「あなたは私の人生そのもの」。DLEには「特に親密な関係にある相手に」と明記されています。
●corazón / tesoro(心臓・宝物)
⇒「私の心」「私の宝物」。子どもへの呼びかけとしてもよく使われます。
そこが文化のちがいで、いちばん面白いところですね!
スペイン語圏では愛称が会話の潤滑油のように働きます。日本語の感覚で直訳すると重すぎますが、現地では「おはよう」に添える砂糖ひとさじくらいの気軽さなんですよ。
迷ったときは、まずいちばん安全で万能な cariño から使ってみましょう!
”cariño”の意味と語源・覚え方のまとめ
以下、”cariño”の意味と覚え方についてのまとめです。
⇒コアイメージは「そばにいてほしいと心が傾く気持ち」
⇒恋人・家族・友人・ペット・思い出の品にまで使える、守備範囲の広い愛情語
●辞書の話題ポイント ⇒ 看板辞書のDLEには呼びかけの用法が載っていない。cielo・churri・guapo・nene には呼びかけを示す記述があるのに、cariño と corazón には無い——つまりラベルの付け方自体がDLE全体で不揃い(cariño だけが除外されているわけではない)
⇒ 一方、同じRAEの学習者辞典にはきちんと記載あり=RAEの辞書どうしが食い違っている状態
●語法・文法のポイント ⇒ tener cariño a 人(人に愛着を持つ)が最重要構文。con cariño(愛をこめて/丁寧に)、複数形 cariños(スキンシップ)、encariñarse con(愛着がわく)もセットで覚える
⇒ cariño mío は相手が女性でも cariña mía にはならない(cariño が男性名詞だから)
●語源のポイント ⇒ 諸説ありとしつつ、ラテン語 carēre「欠く」由来説が有力。初出は1514年ごろで、ポルトガル語由来説は年代と意味の証拠から退けられた。「欠けている→恋しい→愛おしい」という道すじの名残が、DLEの語義3「郷愁」やアラゴン語の動詞 cariñar に今も残っている
⇒ よく似た caricia はラテン語 cārus「愛しい」由来で、出自がまるで逆
●注意点 ⇒ cariñito は中南米の多くの地域で「ちょっとした贈り物」の意味(ホンジュラスでは「袖の下」)。甘い呼びかけを作りたいなら amorcito などを使う
●日本語との違い ⇒ 日本語には愛称で呼び合う習慣自体が薄いため、訳が「ねえ」「あなた」「訳さない」に割れる。縮小辞 -ito / -ita は日本語の「〜ちゃん」に近い働き
mi amor や cielo など、他の愛称もぜひあわせてご確認いただければ幸いです!
「Real Academia Española, Diccionario de la lengua española, 23.ª ed.(https://dle.rae.es/cariño)」
「Real Academia Española, Diccionario de la lengua española「cariñar」(https://dle.rae.es/cariñar)」
「Real Academia Española, Diccionario de la lengua española「-ito, ta」(https://dle.rae.es/-ito)」
「Real Academia Española, Diccionario de la lengua española「caricia」(https://dle.rae.es/caricia)」
「Real Academia Española, Diccionario de la lengua española「cielo」「churri」「guapo, pa」「nene, na」「vida」「corazón」「coger」各項」
「Real Academia Española, Diccionario de la lengua española「encariñar」(https://dle.rae.es/encariñar)」
「Real Academia Española, Diccionario del estudiante(https://www.rae.es/diccionario-estudiante/cariño)」
「Asociación de Academias de la Lengua Española, Diccionario de americanismos(2010)「cariño / cariñito」(https://www.asale.org/damer/cariño)」
「Joan Corominas & José A. Pascual, Diccionario crítico etimológico castellano e hispánico(DECH)「cariño」」
「Ricardo Soca, La Página del Idioma Español「cariño」(https://www.elcastellano.org/palabra/cariño)」